点数表につきましてはこちらの記事をご覧ください。


fee「今回取り上げる本は『刺青の男』という作品。連作短編集です。刺青が、『千夜一夜物語』みたいな感じで、語り出す」

 

仔月「まさにそんな感じですね!」

 

fee「連作短編集なんですが、収録順に読まなきゃいけないわけでもないですね。1編くらいなくなっていても多分気づかない感じの……」

 

仔月「刺青が語った18の物語! ってだけですから。作品間の繋がりはありません」

 

fee「繋がり、ないですよね。多分」

 

仔月「ないと思います」

 


☆『ロケット』


スクリーンショット (4994)


fee 97

仔月 88

 

fee「物語は近未来。ロケットで宇宙旅行ができる時代ですが、宇宙旅行には大金がかかるので、大金持ちじゃないと行かれません」

仔月「世知辛いですね……」

 

fee「主人公はフィーオレロ・ボドーニさん。貧乏な一家の父親です。いつかロケット旅行に行きたい。ロケットが飛びかう夜空を眺めて、いつか俺も行けたらなぁと思って、日々暮らしていました。仕事道具を買うためにこつこつと貯金しているんですが、仕事道具を諦めれば、一人分のロケット旅行ができる金額を頑張って貯めました!」

 

仔月「はい」

 

fee「ボドーニさんと奥さん、それから子供が5人。全部で7人家族になります。7人のうち1人しか行かれません。誰が行くんだ?という展開になります」

 

仔月「ですね」

 

fee「みんな優しいので……譲り合っちゃうんですよね。譲り合っちゃって、結局誰も行かない事になります」

 

仔月「(苦笑)」

 

fee「僕、このシーンがすごく好きなんです」

 

仔月「あぁ~」

 

fee「翌日。貯金を下ろして、模型ロケットをボドーニさんが買ってしまいます。いろんな装備、映像とか振動とかをつけて、ちょっと子供だまし的な偽物ロケットを作ります。飛べない置物ロケットです。奥さんはお怒りのご様子ですが……」

 

仔月「はははw」

 

fee「ボドーニさんが、『火星旅行に行くぞ!』と言うと子供たちは大喜び。庭に置いてあるロケットにハンモックなどを釣るして、7日間、ロケット旅行をして家に帰ってきます。

笑顔で帰ってきた子供たちと、ボドーニさん。そんな彼に、『あなたは世界一の父親だ!』と奥さんが言葉をかけて終わります。そんな感じかな?

物語の一番最初で、ボドーニさんと現実主義者のブラマンテ老人が話をしていて……」

 

仔月「話してますねw」

 

fee「『みんながロケットに乗れる未来なんて来ない。結局金持ちだけのもので、貧乏人は乗れないじゃないか!』というブラッドベリの悲観的なところが……」

 

仔月「あぁ~……ありますよね、そういうところは。この作品に」

 

fee「現代日本では、飛行機や新幹線には大金持ちじゃなく、庶民でも乗れるので。もう少し楽観的になってもいいんじゃないのかな?と思うところはあります。ボドーニさんだって、6年間で火星ロケット1人分の貯金はできたわけだから。子供がいなくて、奥さんと2人だけなら、12年頑張れば貯められる……」

 

仔月「一応可能ではあります」

 

fee「現代日本的には、1000~2000万円くらいの感覚でしょうか? ちょっとよくわからないけど。マイホームよりは安いような気も……」

 

仔月「確かに」

 

fee「でも、かなり勇気は要りますね」

 

仔月「ですねw 結構な買い物だと思います」

 

fee「ほいほい気軽に行ける感じではないです」

 

 

仔月「88点をつけていることからもわかると思いますが、この作品、かなり好きです。

どのシーンが好きかというと、子供を騙すシーン。結局、このロケットって偽物じゃないですか。偽物ではあるけれど、本物のロケットに遜色なく、子供たちを幸せにできる。そういうところにロマンがあって好きなんです」

 

fee「なるほどなるほど。わかります。僕は、途中で譲り合っちゃうシーンがすごく好きです。ブラマンテ老人は、『ロケットの枠が1人しかいなかったら、皆がその1人を妬んで、嫉妬して、殺人事件も起きかねない』くらいの事を言いますけど。ボドーニ一家はみんな優しいので」

 

仔月「実際はそんなふうにはならなかった」

 

fee「その描写が読んでいて、切ないというか悲しいというか。お互いがお互いをすごく優しく想いあっているシーンに惹かれて、そこで評価が高いんです。良い一家だなぁと思いました」

 

仔月「意識してそう読んでみると、そう読む事もできますね」

 

fee「そんなに難しい読み方でもないですよw 子供のパオロ君まで、遠慮しちゃってね。『僕が火星に行くんだ!』って踊り狂って喜んでいたのに、羨ましそうにしている他の家族を見て、『帰ってきた時にいじめたりしない?』『学校の勉強があるから行かないよ!』って。

……それにしても、子供たちには一週間本当にバレなかったんでしょうか?」

 

仔月「www どうなんですかねw」

 

fee「子供たちは、薄々真相に気づいていたけど敢えて盛り上がってあげた可能性もあるかなってw」

 

仔月「気づいていたけど、父親のサービスにノッてあげた、みたいな?」

 

fee「そうそうw ちょっとうがちすぎでしょうか?」

 

仔月「結構気を遣う感じの子供みたいなので、その線もなくはないかな……」

 

fee「気づいた場合と気づかなかった場合、どちらもある意味ハッピーエンドですよね」

 

仔月「ハッピーエンドである事には変わりません」

 

fee「後は読者が、どちらの解釈を好むか。という感じかな。

子供が真相に気づいた上で、ノッてあげたなら、本当に家族の優しさが身に染みる話になりますし。気づいていなかったなら、子供の夢を叶えてあげたパパのお話になります」

 

仔月「個人的には、気づかなかったパターンの方が好きかなぁ」

 

fee「まぁ、気づかなかった方が夢がありますよね」

 

仔月「はいw」

 

fee「僕はジャンル、というものにはあまり興味はないんですが、この作品はSFと言って良いんでしょうか?」

 

仔月「どうなんでしょう? SF作品はいくつか読んでいますが、SFの定義がイマイチわからなくて。この作品がSFに含まれるかどうかは、難しいところですね」

 

fee「境界線上くらいですよね」

 

仔月「何とも言えない……」

 

fee「僕はむしろ、ミステリでもSFでもエロゲでも、これぐらいの【ジャンルからややはみだしかけている】作品に好きな作品が多いんですけどw」

 

仔月「自分はガチガチのSFも好きです。こういうSFも好きです。どちらもそれぞれに味があって」

 

fee「ガチガチSFを読みたい時は、違う作家を選んだ方が良いですね(苦笑)」

 

 

☆『万華鏡』


 スクリーンショット (4996)


fee78

仔月96

 

fee「おぉ~、高得点だ!」

 

仔月「この作品、凄く好きなんです

 

fee「僕も結構好きです。好きだけど、相手が96点をつけているとなると、ちょっと切り込みづらいなw この『万華鏡』という作品は、ブラッドベリ作品の中では、かなり有名な作品です」

 

仔月「あ、そうなんですね。それは知らなかったです」

 

fee「あらすじ行きます。ロケットが故障して、船員が皆、宇宙空間に投げ出されます。語り手は乗組員の、ホリスさん。間を全部吹っ飛ばして、エンディングを語りますと、ホリスさんが火の玉になって地球に落っこちていきます。田舎道を歩いていた少年がそれを見て、『流れ星だ!』と叫び、お母さんが『願い事をおっしゃい』と少年に語りかけて、終わります。そうなるまでに色々あるわけですが……この最後のシーンが非常に有名なんです。ホリスさんが燃えて地球に落ちてくるところを、母親が『流れ星よ! 願い事をおっしゃい。願い事をおっしゃい』と少年に語りかける。このシーンが評価されているようです」

 

仔月「ぼくもこのシーンは好きなんです! なぜ好きかと言うと、ホリスさんが地球に落ちる直前に『最後に何か一つ、善いことをしたい』と願う。ホリスさんの死は、それを見る少年と母親には『流れ星』として、この2人に良い影響を与えている。ホリスさん本人が思ってもいない形で、他の人に影響を及ぼしている。それがすごく好きなんです」

 

fee「僕、この作品を読んでいた時に、最初ちょっと誤読したんですよ。本のせいというより、僕がぼんやり読んでいたからだと思います。誤りに後から気づいたんですけど……えっと、ここに出てくる隊長っていうのは何者なんですか?」

 

仔月「え、隊長はホリスです……よね……?」

 

fee「いや、僕も最初はそう思ったんですけど、でも違いますよ」

 

仔月「えw あれ?」

 

fee「……仔月さんも同じ誤読をしているって事は、やっぱり作品の方に問題があったのかなw 僕も途中までホリスが隊長だと思って読んでいたんですけど……ホリスって地球の方に落ちて行っていますよね?」

 

仔月「ですね」

 

fee「P64の後ろから3行目に『隊長は月に行く』という文章があります*1」

 

仔月「あっ……本当だ」

 

fee「そうでしょ? でもこの作品、色々おかしいんですよ」

 

仔月「(苦笑)」

 

fee「ホリスの親友のストーンも最初は月に行くって書いてあったのに、途中で流星群の方に行っちゃうし。まぁこれは月の近くに流星群があって、流星群の引力にひきずられた可能性もあるんですけど……。散々、火星の妻について自慢話をしたレスペアさんが、直後に『俺は静かにしている。静かに諦めている。あんたみたいにみすぼらしくならない』と言ったり。お前めちゃくちゃ喋ってたやん!っていう」

 

仔月「www」

 

fee「もっとまずいのは、P59L2『みすぼらしい? ホリスはそのことばを舌の上でころがした。今まで、記憶している限りでは、自分をみすぼらしいと思った事は一度もない』という文。
P57の後ろから5行目。わずか2ページ前に『なんたるみすぼらしさ。ホリスはおのれのみすぼらしさを感じていた』と書いてあります。

ホリスもレスペアも、ショックで数秒前の事も忘れるくらい、支離滅裂になっている、というのは最大限、好意的に読んだ場合ですが……。ブラッドベリさん、ちょっと、推敲ぐらいしてくださいよww と思う部分もないわけではない……」

 

仔月「言われてみるとほんとに。これは致命的なミスではw」

 

fee「隊長に名前がない理由もよくわからないし」

 

仔月「自分も、完全にホリスが隊長だと思い込んでいました」

 

fee「だって、ホリスって偉そうじゃないですか?」

 

仔月「ふふふw」

 

fee「でも、ホリス隊長!って呼ばれてるシーンはありません」

 

仔月「確かにないですね」

 

fee「そういう雑なところをひっくるめても、良い作品だとは思います」

 

仔月「96点はちょっと高くつけすぎたかなぁ……」

 

fee「www 

P53L10 『ホリス、まだいるか?』ホリスは返事をしなかった。 P53L15 隊長が口をはさんだ。
挟んだという表現が使われている以上、第三者かなと」

 

仔月「ホリスとアプルゲイトの間に、隊長が口を挟んだ、と。……あー、言われてみれば確かにそうですね。ぼくはホリスが隊長という立場に固執して、偉そうにしているんだなぁと思って読んでいました」

 

fee「事故が起こっちゃって、もう立場とか職位とか関係ないのに、いつまでも偉そうに隊長面してるなぁこいつ、って感じでしたけど。ホリスがどうというよりも、アプルゲイトという人がトラブルメーカーで、ホリスとも隊長とも仲が悪いんでしょうか」

 

仔月「喧嘩を吹っ掛けているみたいなところはありますね。P55L13あたりからの、『怒ったのか、ホリス』『あんたは出世したくて、ウズウズしていたっけな、ホリス。なぜクビになったか、不思議じゃなかったか? おれが告げ口したのさ』のところとか。ホリスを煽るように、言葉をぶつけている感じで」

 

fee「傍にいないので、言いたい放題ですよね。でも、アプルゲイトが最後に、ホリスに謝罪して。ホリスも善い気分に、優しい気分になって」

 

仔月「最後に何か一つ善い事をしたい、と」

 

fee「ホリスも割と単純な人ですね。まぁ、人間そんなもんかもしれません。レスペアはどうですか? ホリスは、レスペアに嫉妬していたんですけど……ホリスは、リア充に嫉妬するモテない男みたいな感じで描かれていますね」

 

仔月「レスペアは、妻が複数人いるみたいですし……」

 

fee「リア充というか、遊び人ですよねw 遊び人で、楽しく生きて、思い残す事はない! 死ぬぜ!って。

それに対してホリスは、『死んだら同じじゃねーか!』みたいな事を言って、必死にみすぼらしさを隠して。『俺の人生もレスペアと同じぐらい最高だった!』みたいな虚勢を張ろうとしているけど、やっぱり羨ましがっているw

つまりこの作品のメッセージは、【いつ死ぬかわからないから、豪遊しておきましょう】ですか?」

 

仔月「ww まぁ、そういうところはあると思います。死ぬ間際になって、良い思い出があるかどうかで、その際の心持ちが大きく違ってくるというのは、この作品で描かれていると思います」

 

fee「その、良い思い出、良い人生のモデルケースとして、レスペアが妥当なのかどうか?というのはちょっと微妙ですけどね。どの星にも奥さんがいて、一夜で二万ドル博打でスッちゃうような享楽的な人生が、輝いていたと言えるのかどうか……」

 

仔月「まぁそうですね。でも、レスペア本人にとっては、満足できる人生だったので、それでいいんじゃないでしょうか?」

 

fee「あ、そっか。一般論の【誰が見ても充実した人生】の話じゃなくて、【充実した人生を生きた、と本人が思える人生】」

 

仔月「本人にとって満足できれば良い、という事ですね」

 

fee「ホリスは残念ながら、満足できる人生は送れなかった……」

 

仔月「描写を見ている感じでは、そうですね(苦笑)」

 

fee「ストーンは流星群の中に入ったらしいんですが。普通に考えれば、流星群に巻き込まれて、ぶつかって亡くなっちゃうと思います」

 

仔月「ですよね」

 

fee「でももしぶつからなかったら、流星群の中に入って、5年おきに火星と地球の間を永遠に行き来しながら生きていくんでしょうか?」

 

仔月「奇跡的にぶつからなかったら、そうなってしまうかもしれませんね……」

 

fee「それは羨ましいのか、絶望的なのか。何とも言えない感じなんですけど……*2」

 

仔月「そう考えると、怖い話だなぁと思ってしまいました」

 

fee「怖いですよね……もう楽にさせてくれよ!っていう。

『おれもこの連中のお供だ!』ストーンは笑った。
とは書いてありますけどね。

ちなみにガチSFの愛好者が、『月とか冥王星とか、地球とか、そんな風に方向がバラバラになる事はあまりない』とか、『石ころの中に飛び込んでいくならわかるが、キラキラと輝く流星群の中に飛び込んでいくという描写は……』とツッコミを入れているのを読んだことがあります。

まぁ僕はそこはツッコまなくてもいいかなーと思って流したんですが、仔月さんはどうですか?」

 

仔月「その辺の知識がないこともあって、『まぁ、そういう事もあるんかなー?』と軽く流してしまいました」

 

fee「まぁ、ブラッドベリ作品は、SFというよりは、ファンタジーですからね……」

 


*1  版によってページ数が違います。ここでは2013年4月発行のバージョンを基にしています
旧版では、文字が小さいため、若干のズレがあると思います。ご了承ください。

*2  キラキラと輝く流星群の一員となって、永遠に地球と火星を旅し続けるという羨ましさと、
永遠に宇宙空間をさまよい続ける絶望感。

 

☆『草原』


スクリーンショット (4989)


fee 88→93

仔月82

 

fee「似たような点数かな?」

 

仔月「大体同じぐらいでしょうか」

 

fee「『草原』なんですが……これはホラー作品ですね」

 

仔月「ぼくもホラーだと思います」

 

fee「この話、結構怖いんですけど……」

 

仔月「最初は技術批判、文明批判の物語をやりつつ、最後のオチをホラーに持っていく。そんな印象を受けました」

 

fee「ブラッドベリは、世間ではSF作家として捉えられていると思うんですが、初期短編集の『10月はたそがれの国』にはホラー色の強い短編も結構入っています。最初はホラーも数を書いていたのが、段々SFにシフトしていったという印象です」

 

仔月「なるほど。そうなんですね」

 

fee「ブラッドベリは、ホラーも巧いです。描写が丁寧なので、それを感動方面に振り向ければ感動作も書きますし、恐怖方面に振り向ければホラーも巧い。今回のハドリー一家は、『ロケット』に出てきたボドーニ一家とは大違いの、本当に嫌な家族です」

 

仔月「はははw」

 

fee「四人家族。パパがジョージでママがリディア。子供がピーターとウェンディ。全自動の家に住んでいまして、人間が何もしなくても、家が全部やってくれます。すごく便利で、羨ましいですね……羨ましくないかw オチを知っていると全然羨ましくないw この作品が書かれたのは1951年……」

 

仔月「あ、そんな昔なんですか!」

 

fee「この短編自体はわからないけど、短編集の『刺青の男』自体が1951年に出版されているので、書かれたのはそれより前ということになります。1951年といえば第二次大戦から6年後、朝鮮戦争あたりですよね。時代を先取りしまくっていて、ブラッドベリ凄いなぁ! SF凄いなぁ!と思っちゃいます」

 

仔月「全面的に同意です」

 

fee「ここに出てくる子供部屋の装置は、ここ2年ぐらいに流行ったVRを彷彿とさせるような?」

 

仔月「どちらかと言うと、ARに近いです」

 

fee「AR? 初めて聞いたので解説お願いしますw」

 

仔月「VRは、【コンピューター内】に仮想現実を構築する。ARは、【現実世界】にコンピューターの情報を重ねて、任意の空間を再現する形です。なので、AR寄りかなって*1」

 

fee「映画館とかで、座席が揺れたりとか、臭いが出たりとか。そういうものも連想しました」

 

仔月「あぁ~、ありますよね!」

 

fee「そういう科学技術への先見性がすごいなって。『草原』に出てくる子供部屋はそんなARっぽい感じで、アフリカの情景を流しています。特にライオンの映像をよく流していますね。アフリカの草の匂いなどなど、描写がとても細かくて良い。そんな、アフリカ化した子供部屋に、怯えているのが両親です」

 

仔月「特に妻のリディアが怯えています。実際、ライオンがこちらに走ってくると怖いでしょうし。それが偽物だと分かっていても」

 

fee「1年ぐらい前までは、この子供部屋はおとぎの国みたいな。幻想的で楽しい【コドモの夢!】的な空間だったのが、ここ1カ月ぐらい、突然アフリカに、殺伐サバンナになってしまいました」

 

仔月「ははははw」

 

fee「その後の展開を大雑把に紹介すると、両親が子供部屋を取り上げようとして、子供がそれに反発する。反発した挙句に、最後、両親がライオンに食べられちゃった、のかな?」

 

仔月「ぼくはそういう風に解釈していますが、ちょっとよくわからないなーという部分もあって。ライオンがなんで、両親に物理的な危害を与えられるのかなって」

 

fee「これは、ロボットの反乱の話かなと」

 

仔月「技術の暴走という事ですか?」

 

fee「僕はそうかなと思ったんです。家が自我を持って。パパとママは家を消そうとしている側の人間なので、家側が自己防衛したのかなって」

 

仔月「そういわれると確かに。なるほど」

 

fee「アシモフのロボット三原則的な話をすれば、それはロボットにはできないはずだ! となるんですが。作家も違いますし、『われはロボット』の刊行が1950年と、ほとんど同時代なので、アシモフ的なロボット観で考える必要はないのかな、と思いました。

ライオンという現象自体は、考えても仕方ないかなって。ライオンを本当に呼び出せるのかもしれないし、もっと全然違うものを、映像としてライオンに見せかけているのかもしれません」

 

仔月「家の機能に関して、明確に何が出来て何が出来ないのかが、作中では確定していないので、ライオンを呼び出したりできる可能性もあるわけですか」

 

fee「最後の部分がちょっと色々解らないんですが、そこに至るまでの部分について触れたいです。まず、子供なんですけど、これは完全に教育に失敗しています」

 

仔月「ですねw」

 

fee「まず、子供の名前ですが……ピーターとウェンディ。ピーターとウェンディというのは、『ピーターパン』の登場人物ですよね」

 

仔月「あ、そうなんですか」

 

fee「はい。ピーターパンというのは【子供のままでいたい!】と考えている子供です。妖精のウェンディが、【自分の国を救ってくれ】とピーターに助けを求めて、ピーターは冒険に出ます。そこでフック船長と戦ったり色々するのが『ピーターパン』の物語です。

ちなみに『ピーターパン』は昔読んだきりなので、間違いがあったらごめんなさい」

 

仔月「はいw」

 

fee「ピーターとウェンディというのは、要するにジョージとリディアがつけた名前です。【いつまでも子供のままでいてほしい。純真な子でいてほしい】という願いが込められた名前です。すごくかわいがっているというか、ちょっと夢見がちな感じ。【箱入り】で育てているんだろうなというのが、この名前一つでわかります。今でいう、キラキラネームに近い……」

 

仔月「あーwww」

 

fee「ピーターとウェンディは、童話世界の名前ですからね。僕はそういうセンスは好きですけど、リアルで考えると『ちょっとこの親御さん……頭軽そうだな……』とは思います……悪人とかではなさそうですけど……」

 

仔月「うーんwww」

 

fee「日本人なら、兄が浦島で妹が乙姫とかになるのかな。姉がかぐやで弟が桃太郎……そういう路線です。そんなパパとママのメンタリティなので、ワガママ放題に育ててしまったというのも……」

 

仔月「まぁ、そうなるだろうね、ってところでしょうか(笑)」

 

fee「だから、ブラッドベリの名前の付け方は巧いなと思いました」

 

仔月「『ピーターパン』の知識がなかったので、全然気づかなかったです」

 

 

fee「教育の失敗というか、【子供ってこえーな】って。子供って、残酷ですからね。蟻の巣を水没させたり、ダンゴ虫を蹴飛ばして丸めたりとか……うぅ、すみません(陳謝)」

 

仔月「この作品でも、結構酷い事してますね」

 

fee「簡単に言うと、このピーターとウェンディは親を舐めきっています。家が全部やってくれますし。

一度、外のアスレチック施設に子供が遊びに行くシーンがあるのはちょっと意外でした。引きこもりじゃなくて良かった」

 

仔月「確かに、外に出なくても部屋の方が全部用意してくれますから……」

 

fee「親は部屋に対してストレスを抱えていますが、子供は家に対するストレスでおかしくなったのでしょうか? パパは煙草をたくさん吸うようになって、ママもノイローゼみたいになっていて。子供もそれでおかしくなったのか、子供に関しては部屋からの悪影響は特にないのか」

 

仔月「ぼくは、教育の失敗であぁなっただけで、部屋の悪影響は考えませんでした」

 

fee「なるほど。終盤、子供部屋を消せば良かったのに、最後1分間だけスイッチを入れちゃうじゃないですか」

 

仔月「入れちゃいますねw」

 

fee「これは、母親のリジアが甘すぎる。ママはめちゃくちゃ甘やかしなんです。パパは厳しくして、ママが甘やかすタイプの一家だけど、最後は結局ママの言うとおりになっちゃう。ホラー小説でこういう事をすると、命とりですね。それはやっちゃいけない、という行動を登場人物が取るのを、読者は黙って見ていないといけない……」

 

仔月「一種のお約束みたいなね……」

 

fee「ここまで読めば、【子供ってこえーな】って話だと思うんですけど、最後にちょっと疑問がありまして。ハドリー夫妻が死ぬシーン、P45の最後の2行。
『ハドリー夫妻は悲鳴をあげた。そして、突然分かった。今までの悲鳴に聞きおぼえがあったのも道理』という文章。ここの解釈に、すごく迷って」

 

仔月「自分もここは質問しようと思っていたんです」

 

fee「この時点で、子供が既に死んでいた可能性はありますか?」

 

仔月「いや……。悲鳴自体は最初の方でも描写がありまして*2」

 

fee「何回も出てきますよね」

 

仔月「部屋の景観が、子供の潜在意識を反映しているものだとすると、子供はずーっと親を殺したいと思っていたのかなって」

 

fee「あーーーー、これは親の悲鳴か!」

 

仔月「そう。何度もライオンが親を食い殺すシーンを子供たちがシミュレーションしていたのかなぁと。自分たちの悲鳴だから、聞き覚えがあったのかなって」

 

fee「あぁ~なるほど。そうだな、そうっぽいなぁ。僕も仔月さんの解釈を支持します。

僕、これは子供の声かなと思って読んでいたんです。実際のピーターとウェンディは既に【部屋】によって殺されていて、ここに出てくるピーターとウェンディは、家が作り出した【映像】なのかなって。

そう思ったんですけど、そうしちゃうと【子供たちが怖い】という良さがなくなっちゃいますよね。【子供の怖さ】と【ロボットの反乱の怖さ】、片方を取ると、片方を捨てる事になるので、勿体ないなと思ったんだけど……。

仔月さんの解釈を取るなら、【両方の怖さ】が楽しめますね」

 

仔月「【両方の恐怖】の良いとこ取りみたいな感じです」

 

fee「じゃあ僕、『草原』の点数を93点ぐらいに上げます」

 

仔月「この作品は怖いですね」

 

fee「短編集の最初にこれがあるのは……」

 

仔月「インパクトありますよねw」

 

 *1  このように述べていますが、聞きかじりの知識なので、作中の装置がARという区分に本当に含まれているかどうかは分かりません……

*2  P21L15 や P27L10 など