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☆『街道』


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fee「7ページしかないのか……」

 

仔月「そうですね、かなり短い作品です」

 

fee「街道に住んでいるエルナンドさん。お店をやっているのかな?」

 

仔月「この日は、車が猛烈に都心(?)の方からやってきます。エルナンドは一体なんだ!?と思って。逃亡者の群れから『なぜ逃げないんだ!?』と話しかけられるんですが、エルナンドの方はサッパリよくわからない。そんな感じの話です」

 

fee「『ものすごい最終戦争が起こったんすよ!』みたいな事をみんなが言いながら、避難して行っちゃう。エルナンドはよくわからないまま、取り残された、というお話でした

 

仔月「ほんと、それだけで終わってしまう話ですw」

 

fee「2011年に大震災があったじゃないですか。僕は関東地方に住んでいまして。福島の原発が爆発して……爆発でいいのか? まぁ、細かいところはいいんですけど、放射能が東京まで来る!とか、政府の基準がうんたらとか、大騒ぎしていました。僕は心配性なので、『これは家族を説得して、東京を脱出した方が良いのか?』とか、ちょっと考えたんですよ。そういう事をした人も多分いるんです。実際には、そこまで騒ぐほどの事もなかったんですが……」

 

仔月「後になって、分かったという……」

 

fee「そうそうそう。だけどパニックになっちゃってて、『ヤバい!逃げなきゃ』みたいな」

 

仔月「実際そういう状況に陥ったら、ぼくもそうなってしまうタイプだと思います」

 

fee「僕も東北に住んでいたらそうなったと思うんですけど、そこはちょっと距離が離れている東京だったんで。でも、ちょっと外に出るのは怖いな、とか、マスクはつけた方がいいのかなとか、色々敏感になっていました。東京近郊でも放射能の強いスポットがあるとか。

ガイガーカウンターの貸し出しとかも、役所でやっていましたし」

 

仔月「あ、そうなんだ……」

 

fee「僕は貸し出してもらうところまでは行かなかったけど。それぐらいビビっている人が結構いた。だから、本当に最終戦争が起こってこうなったのか、大震災の時の脱出民みたいなものだったのか。エルナンドさんは結果的にこれで良かったのか、これで逃げ遅れてしまったのかは、ちょっと何とも言えないところがありますね」

 

仔月「どうなんですかね。ぼくが読んだ時は、【勘違いだった】というか、物事を大きく受け止めすぎたというふうに捉えたんですけど」

 

fee「【大震災の避難民】として読んだんですねw」

 

仔月「はい」

 

fee「なるほどね。そういうふうにも読めますよね。あまり作家論的な読み方をしてもツマラナイんですけど、ブラッドベリはよく【核爆弾で地球が最終戦争】みたいな話を書くので、これもそれだと考えるなら、本当に最終戦争が起こったのかもしれません」

 

仔月「あぁ~」

 

fee「パターンが限られている作家なので……。よく核戦争が起こるのと、よく焚書が起こって、焼かれる本は大体エドガー・アラン・ポーあたりなので……」

 

仔月「この短編集にもありましたよねw 『亡命者たち』がそうだったかな」

 

fee「そうですね。『火星年代記』でも同じような事が起きていたり(『アッシャー邸の崩壊』)、『華氏451度』もそんな話でしたし」

 

仔月「ですよねw」

 

fee「よくあるブラッドベリ展開、みたいなところもないわけではないですけど。ただ、そういう読み方をしてしまうと、パターン解析みたいな感じで物語の素朴な楽しみが失われてしまうので、あまりお勧めはしません。……もっとも、実際に最終戦争が起きていたとして、街道を車で走ったってねぇ」

 

仔月「正直無駄ですよね」

 

fee「世界の終わりだって書いてありますからね……。

大震災とは全く反対の結果になった事件として、第二次世界大戦中、ドイツの侵攻からユダヤ人が逃げ遅れた話もあります。ナチス・ドイツが伸長してきている時に『ヤバい!』と真っ先に逃げ出した人は助かり、『まぁ、そうは言ってもたいていは大丈夫だから』とノンビリしていた人はホロコーストにあった。だから何とも言えないけど……」

 

仔月「ダメだったら、エルナンドさんはもう……でも逃げようとした人たちも逃げ切れなかった可能性もあるし、結局何も知らずに死ねるんだったらそっちの方が幸せかもしれない……」

 

fee「まぁ、そうですよね。どうせ亡くなるなら、亡くなる一秒前まで知らない方が幸せだなぁ。この作品、僕はそんなに嫌いじゃないです。読みやすいし」

 

仔月「確かに、読みやすいですね」

 

fee「無駄なところが一切ないです。『だから何?』って言われたらそれまでですけど……」

 

 

☆『亡命者たち』

 

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fee「さっき言ってしまいましたけど、ブラッドベリの好きな焚書話です。

……好きなというか、ブラッドベリ自身が本気で恐れているんだろうなと思います。こんな未来になったら嫌だなぁと。」

 

仔月「あぁ~」

 

fee「あらすじです。作家たちが、火星にいます。地球では焚書が行われていて、地球に存在する最後の1冊が焼かれてしまった時、火星にいる作家もまた死んでしまう。という話でいいのかな?」

 

仔月「宇宙船が火星に向かっている。船員たちが火星に来るのを、エドガー・アラン・ポーをはじめとした焚書の著者たちが食い止めようとするんですが、結局船員たちは火星に到着し、本を燃やしてしまう。燃やす事で、著者たちが消えてしまうという話です」

 

fee「多分、ブラッドベリがこの話を書いたのは1950年ぐらいだと思うんです。当時のアメリカは赤狩りというのがあったんですね。共産党系のものは全部禁止、みたいな。全体主義的な風潮が出てきそうになった時期なんです。そういうものに敏感に反応して、ブラッドベリがこういう作品を書いたんじゃないかなぁと」

 

仔月「共産主義的な思想本などが次々と規制されていく、そういう風潮を恐れたということですか?」

 

fee「そうですね。ブラッドベリ自体が共産主義というわけではないと思うんですが、『気に入らないものは規制してしまえばいいんだ!』みたいな人たちが幅を利かせてきていて怖い、というのはあったでしょうね。この手の規制は、初めは誰もが納得するような危険思想の本だけに限定していても、段々段階を踏んでエスカレートしていくものなので」

 

仔月「ディケンズとかポーなど、実在の作家が何人も出てきますが、ぼくはこの作家たちがどういう作家で、どういう作品を書いたのかを全く知らなくて。元ネタを知らないとイマイチ楽しめないというか、乗り切れないところが結構あって、それが致命的だった気がします」

 

fee「それはあるかもしれませんね。まぁ、ブラッドベリ世界で焚書されるのは大体いつもこの辺りの人たちなので、一度覚えちゃえば顔ぶれは変わりません(苦笑)

簡単に言っちゃうと、ほとんど全部がファンタジー作家ですね。現実の事を書く作家じゃなくて、ホラーとかファンタジー」

 

fee「ここに出てくる中だと、シェイクスピアが一番有名でしょうか。この作品で出てくるのは『マクベス』ですが、三人の魔女が箒で飛び回っているような話ですよね……ですよねって言っておいて『マクベス』未読なので、凄い雑な語りなんですが……。『ハムレット』と『ロミオとジュリエット』しか読んでいないんで……」

 

仔月「ぼく、1つも読んでないです……」

 

fee「『ベニスの商人』とか『リア王』とか、タイトルは知っているんですけどね……。ポーはいろんなジャンルの創始者と言われています。それなりに今読んでも面白いと思います。ホラーの『黒猫』とか。猫を殺して壁に埋めたら、猫の形の影が浮かび上がってきて、犯人を名指ししたみたいな話とか。ミステリの原型になった『モルグ街の殺人』とか『盗まれた手紙』とか。『盗まれた手紙』なんかは今読んでも面白いです」

 

仔月「あぁ~」

 

fee「ビアースは僕も読んでいないです」

 

仔月「名前も聞いた事ないって感じです」

 

fee「喋りたいんですが、随分たくさんの作家が登場してきますね。1人ひとり触れていたらキリがない気がしてきました。ビアースは多分ホラー作家なんですが、謎の失踪を遂げて亡くなったらしくて。【死に方が伝説!ホラー作家が不審な死を遂げた!】みたいな意味で、アンビリバボー的な、ホラーの小話でたまに名前を見ますw UFOにさらわれたんじゃないかとか」

 

仔月「はいw」

 

fee「ブラム・ストーカーは『ドラキュラ』の作者です。『ドラキュラ』は面白いですよ。RPG的な冒険物語で面白いです。ドラキュラ伯爵を倒しに、みんなで行くぞ!」

 

仔月「本当にRPG的なノリですねw」

 

fee「メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』も面白いです」

 

仔月「『フランケンシュタイン』はどんな話でしたっけ?」

 

fee「フランケンシュタイン博士が、怪物を作っちゃうんです。怪物を作っちゃったんですけど、格好が醜いだけで悪い奴ではない。でも博士は無責任なので、自分で作っておきながら『気持ち悪いもん作っちまったよ!』って言って、逃げようとするんです。怪物は寂しいので、『頼むから、俺と同じような女を作ってくれ』って言って。『女の怪物を作ってくれれば、2人で仲良くしてみんなに迷惑かけないから!』って言うんですけど」

 

仔月「はい」

 

fee「博士は『お前みたいな気持ち悪い奴、もう二度と作りたくない!』って言って逃げて行って、怪物は博士を追いかけて殺してしまいます。割と悲しい話です」

 

仔月「あぁ~」

 

fee「色々面白いと思います。人が作り出したものが、作った創造者を滅ぼす話としても読めますし」

 

仔月「SF的な面白さもある作品なんでしょうか」

 

fee「そうですね。恐怖一辺倒で押していくような作品ではないです。ヘンリー・ジェイムズワシントン・アービングは全くわからないです」

 

仔月「アービングの『スリーピー・ホロウの伝説』はタイトルだけ聞いたことがありますね」

 

fee「旧版だと『眠り洞の伝説』表記になってるから気づかなかったw スリーピー・ホロウの作者なんですか。それなら僕も映画をちらっと見た事があります。ナサニエル・ホーソーン『ラパチーニの娘』は1年くらい前に読んだはずなのに、内容を覚えていません」

 

仔月「結構最近なのにw」

 

fee「後はまぁ、『不思議の国のアリス』とか『オズの魔法使い』とかは~」

 

仔月「『オズの魔法使い』は読みました!」

 

fee「ここでちょっと独特な位置にいるのはディケンズなんですよね。ここまでの作家は、『ホラー・ファンタジー作家なんだね』という捉え方で良いと思うんですが、ディケンズは基本的には純文学の人なんです」

 

仔月「都市生活者の生活を描くイメージがディケンズにはあります。だから、他の作者とは食い違うところがあって、何故ディケンズが混ざっているのかがわかりませんでした」

 

fee「うんうん。ディケンズは……2冊しか読んでいないので適当な事を言いますが(4冊読みましたが、2冊は途中挫折した)、都市生活者の生活を描いた作家という捉え方で合っていると思います。

ただ、『クリスマスキャロル』というファンタジー作品も書いているんです。基本は純文学の人なんですけど、1作だけ(かどうかはわからないけど)素敵なファンタジーを書いた。結構感動的な作品なんですが、その1作を書いたばっかりに、このポーとかビアースのような連中と一緒にされて」

 

仔月「ww」

 

fee「連中って言い方はないかw 失礼しました。この人たちと一緒にされて、『ディケンズもけしからん!』って焼かれちゃったんですよ」

 

仔月「本人も不本意な感じでしたよね」

 

fee「あいつらと一緒にしないでくれ! 『俺は純文学作家なのに、なんであいつらと一緒にされてんだよ!』」

 

仔月「はははははww(爆笑)」

 

fee「何となく、純文学の方がホラーより偉い、みたいな感覚があるのかなw だからディケンズは日和見ですよね。まぁ、一緒にされたくない気持ちは解るけど、もう一緒にされちゃったんだから、力を合わせて一緒に立ち上がった方が良いんですけどね……」

 

仔月「あぁ~ 一緒にされたくないというのは、あったんですよね。本人の希望として」

 

fee「リアルのチャールズ・ディケンズじゃなくて、この作品に登場するディケンズというキャラの希望として」

 

仔月「はいw」

fee「これを読むと、やっぱりブラッドベリは作品を大事にしたい人なんだなと思いました。すぐに消費されて、売ったもん勝ち!みたいな商品小説じゃなくて、百年二百年、世代を超えて読まれていくような作品を、愛している

 

仔月「作品を後世に残したいという気持ちは強くあったんでしょうね。燃やされる事への恐れなどが書かれている事からもそう思いました」

 


 

☆『形勢逆転』

 

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fee「『形勢逆転』の舞台も火星だったかな?」

 

仔月「そうですね」

 

fee「地球以外の星が出てきたら、大体火星なのかなw 黒人が地球を脱出して火星に行きます。黒人がいなくなって地球の支配者になった白人が、例によってまた核戦争をしちゃって」

 

仔月「はいw」

 

fee「地球が崩壊して、生き残りの白人が火星に逃げてくる。初めは、白人がやってくるという事で、地球でされた迫害の仕返しをしてやろうと思っていた黒人ですが、最後に和解して。白人を許してあげて、一緒に火星に住む、という話です」

 

仔月「点数は68とやや低めです。最終的に和解するじゃないですか。なんで和解したのかと考えると、

あれら文明の屑どもは、紙吹雪のように投げ上げられ、すべて飛び散った。もはや憎しみの対象は何一つ残っていない。からの薬莢も、ねじれたロープも、樹木も、あの憎しみの丘すら消え失せた』とあって。

憎しみの対象が消えてしまって、ただ白人だけが残っているので、憎む理由がなくなったということですが、この理由で本当に許してしまうのか?と思ってしまって。説得力不足というか、腑に落ちなかったんです」

 

fee「許さない方が良かった?」

 

仔月「というか、『あ、許しちゃうんだ』と意外に思いました。物語前半で、憎しみを強く露わにしていたのに、後半でパッと態度を切り替えている事に、戸惑ってしまって。理由としては弱くないですか?」

 

fee「なるほどね。まぁ、例えばですけど、男子校で育って、同年代の女性がいなくてデートをした事がない。ネットに書かれている、超ワガママな【女性のホンネ】みたいなものを読んで『あ~、無理だわ!』と、女性恐怖症になった人がいるとして

 

仔月「はいw」

 

fee「現実に何かの弾みで女の子と仲良くなって、その娘が凄くいい娘だったら、女性への【偏見】も解かれると思うんです

 

仔月「その例で行くと納得いきます」

 

fee「人種差別とか食わず嫌いとか、大体は無知から生まれるんじゃないかなぁ。この作品でも、20年間、1回も白人を見ていないんです。地球にいた時の白人の姿のまま、白人を憎んでいて。実際に現れたこの白人は、良い人だった。そんな感じなのかなと思いました

 

仔月「納得できました!」

 

fee「『太陽の黄金の林檎』の『黒白対抗戦』にも少し似ています。黒人・白人問題は根が深いというか、アメリカの作品にはよく出てきますね。この作品が書かれたのは1950年以前なので、まだ公民権運動とか、『黒人差別を許すな!』という運動が起こる前に書かれています」

 

仔月「なるほど」

 

fee「公民権運動が盛り上がったのは55年あたりから。黒人が、白人と同等の人権を持つべきだ!という活動が起こりました。それを考えると、この作品が書かれた頃は、まだまだ黒人は虐げられていた。

現代のアメリカは解りませんが、欧州でも未だに人種差別をしている国はありますよね。僕は欧州サッカーのファンなんですけど、問題になるのは大体ロシアとかイタリアとかあの辺りです……」

 

 

☆脱線

 

fee「第二次世界大戦があって、原子爆弾という新しい爆弾が出来て。アメリカ人自身もビビったんじゃないでしょうか。今までは毒ガスとかせいぜい爆撃機だったのが、一つの街を一発で破壊できるような武器が誕生してしまった」

 

仔月「あぁ~」

 

fee「そうすると他の国も持つかもしれないし、核戦争が起こるかもしれない」

 

仔月「ですねぇ」

 

fee「2つの国が原子爆弾を持っていて、それを互いに撃ち合ったらヤバいぞと思ったはずです。他の国が自分たちに向かってぶっ放してきたらマズいし、自分たちの国も変な政治家が権力を握った結果、やりすぎていろんな国に核爆弾を落としたら、放射能がまわりまわって自分のところに来るからヤバい。そういう危機感は絶対にあったと思います。

1945年に原爆が落とされていて、そこから5年。ブラッドベリも、怖かったんだと思います。だから原子爆弾の最終戦争話がよく出てくるのかなと」

 

仔月「はい」

 

fee「同時に、第二次世界大戦が終わると、アメリカとソ連と中国が台頭してきた。ソ連と中国は社会主義国で、アメリカとは仕組みが違う国なんですよね。自分たちの国も社会主義になったらヤバい、という事で、国内の社会主義者を追い出そうとか弾圧しようという感じになった。それが『赤狩り』です」

 

仔月「『亡命者たち』に出てきた、焚書の話ですね」

 

fee「はい。核爆弾の恐怖もあるし、社会主義への恐怖もアメリカにはあったはず。
更に、ブラッドベリは、社会主義者を弾圧しよう、という動きへの恐怖も持っていた」

 

仔月「はい」

 

fee「アメリカという国が息苦しくなっている。自由に喋れない。社会主義万歳!とか言ったら、逮捕されちゃうような国になってきている。1950年代のSFには、核爆弾で地球が滅亡する話がいくつもあります

イギリス作品で申し訳ないですが、ネビル・シュートの『渚にて』とか」

 

仔月「あぁ、それも50年代だったんですね」

 

fee「1957年です。地球終末SFは50年代に流行りました。ちなみにミステリではスパイ小説が流行りました。ソ連との、スパイ合戦とか」

 

仔月「なるほどです」

 

fee「社会の流れと作品の流れは関連しているので、そういう感じで読むと、見えてくるものもあります」

 

仔月「ぼくは戦後史には疎いところがあって、確かにそういう視点では読めていない部分もありますね」