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☆『狐と森』

 

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fee「絶望的な未来からタイムトラベルで逃げてきた夫婦。夫婦をタイムパトロールが追跡し続ける話です」

 

仔月「一つ疑問に思ったのですが、タイムトラベルする際に、未来の財産を担保として預ける、という記述があります。『もちろん警察は目を光らせてるわ。みんな兵役をのがれたり、過去に隠れてしまうおそれがあるでしょう。ですから、出掛けるときは、帰ってくることの保証として、家や財産を担保にしなきゃならないんですって。なにしろ今は戦争ですものね』しかし未来の財産を担保に入れる事に、何の意味があるんだろう?と」

 

fee「はい」

 

仔月「まず、タイムトラベルしたまま帰ってこない場合は、担保として機能しないですよね。更に、タイムトラベルによって未来が変わってしまった場合、未来で担保しているものも変わってしまうと思います。財産担保は単に形式的なものだけかもしれませんが、引っかかりました。*1

feeさんが紹介してくれたあらすじの補足をすると、過去の世界で楽しくやっていたけれど、未来からの追手が来てしまって。どうしようかと悩んだ末、夫が思い切って追手を車でひき殺します。追手を殺す前に映画製作者たちと出会っているんですが、彼らと近くの街まで一緒に行くことになります。しかし、その映画製作者の正体も未来からの追手だった……。夫婦は結局逃げ切れませんでした」

 

fee「ですね」

 

仔月「この話でも、未来はとても殺伐としていて。要は、昔はよかったのになぁ、というストーリーかなと思いました」

 

fee「そういうふうにも読めますね。まぁ定番の核戦争が起きてしまって」

 

仔月「はい」

 

fee「2155年。おぉ、結構保(も)ちましたね。『火星年代記』では2000年ぐらいに核戦争が起きていた気がしますが、この作品では2155年まで平和だった」

 

仔月「結構保った方ですね」

 

fee「個人的には娯楽作品だと思っています。追っ手に捕まるんじゃないかというハラハラと、やっつけて、ハッピーエンドだと思ったら」

 

仔月「まさかの」

 

fee「サプライズでバッドエンドだった。仔月さんの仰ってくれた事(昔は良かった、的なテーマ性)も間違いではないんですが、メインは追跡劇/スリラーかなと。まぁ、そこまでハラハラするかというと、それなりにはしますけど、超一流のスリラーではない、とは思います。

一つどうでもいいネタとしては、タイムトラベル株式会社は『太陽の黄金の林檎』の『サウンドオブサンダー』にも出てくるんですが、ここでもトラビスっていうキャラが出てきて」

 

仔月「はははw」

 

fee「今回のトラビスとは全然関係ない赤の他人なんですが……。タイムトラベル株式会社の物語には、必ずセットでトラビスが出てくるんだなぁと、クスりとしました。後はまぁ、1938年のメキシコは平和だったんだなと。1938年の日本はヤバそうじゃないですか?」

 

仔月「確かにw」

 

fee「ヨーロッパもヤバいですよね。第二次大戦直前で、ナチスドイツが暴れていて。ユダヤ人は、もうこの辺でアメリカに来ていないと間に合わない。日本は1937年から日中戦争を始めていますが、アメリカ(メキシコ)は平和なんですね。羨ましい。我関せずというか、ヨーロッパでナチスが暴れているけど、俺達には関係ない、栄光ある孤立!(誤用)」

 

仔月「平和そうですよね。この作品を読んでいる限りでも。追手に気づくまでは凄く楽しそうにしていますし」

 

fee「ちなみに、ハラハラしたりはしました?」

 

仔月「ハラハラはそんなにしませんでしたねw 車で追手を殺す大胆さは凄いなと思いましたけど」

 

fee「やっぱり、1人で追いかけてきた追手を倒したら、油断しちゃいますよね」

 

仔月「ですよね」

 

fee「二重三重の罠ですね。謎の解決と見せかけて実は……」

 

仔月「ぼくは完全に騙されました。映画の人が怪しいとは全く思わなかった……」

 

fee「担保云々に関する仔月さんの指摘は正しいと思います。ここは多分、ブラッドベリはあまり考えていないんじゃないかな」

 

仔月「はははw」

 

fee「タイムパラドックスに関しては、『サウンドオブサンダー』で書いているので、ブラッドベリの頭にはあるはずなんですけど。まぁ、この作品ではそこはあまり大事じゃないので、適当に処理した感じでしょうか」

 

仔月「ですね」

 

fee「この話は、過去じゃなくて、違う国に逃げ出したという話でも良いですし。要は追跡劇なわけですから」

 

仔月「そうですねぇ」

 
*1 補足 まず、『狐と森』の未来の世界ではタイムトラベルの株式会社が成立しています。また、タイムトラベルのサービスが顧客に提供されるにあたって、担保を設定することが要求されます。ですが、担保とは不利益が生じた場合にそれを補うものであると考えると、顧客の財産が担保に設定されることに疑問が残ります。顧客がタイムトラベルを行い、過去を変えてしまった場合、未来が変わってしまうかもしれません。そうなると、未来において、「顧客が自身の財産を担保に設定し、タイムトラベルを行った」という事も変わってしまうのではないでしょうか。この場合、未来が変わってしまうため、担保の意味がなくなってしまうように思われます。

 

☆「訪問者」


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fee「レオナード・マークという超能力者が中心人物です。この人は、相手が望むビジョンを見せられる超能力を持っているので、みんな、マークさんの超能力を体験したいんです。みんなで仲良く共有すれば良いのに、超自己中なソールさんという人が、独り占めしようとして」

 

仔月「独り占めしようとしたけど、マークさんは拒否します。他の人たちには交代で見せてあげるけど、ソールさんはやらかしちゃったのでしばらく謹慎という事になりますが……。

 

他の利用者たちが、『こいつ(マーク)は自分たちをうまくやりこめようとしている。自分たちが束になってかかれば、簡単に扱える』と考え始めて。ふとした事故からマークさんが死んじゃって、誰も超能力の恩恵を受けられなくなってしまいます」

 

fee「要するにソールさん以外もみんな自己中で、マークさんを奴隷みたいにしてみんなで使おうぜ!っていう……」

 

仔月「そんな感じですね。『マークさんの意志なんて知った事か、なんでマークさんの命令に従わなきゃいけないんだ』という流れになって、いがみ合ってマークさんが死んでしまった」

 

fee「それで結局誰も得しない」

 

仔月「まさにそうですね」

 

fee「これも『火星年代記』の『火星の人』に似ていて。あちらは、『自分が一番好きな人の姿になってくれる』、という超能力を持った火星人が出てきます。みんなで取り合って」

 

仔月「(笑)」

 

fee「わけがわからなくなって、火星人が死んじゃう話がありました。基本的にブラッドベリは悲観的です」

 

仔月「あぁ~、そうですねw」

 

fee「みんなで分け合って共有すれば良いのに、独り占めしようとする奴が出てきて、いがみ合ったり、みんなでこいつを利用してやれみたいな感じで、超能力者を尊重しないんですよね。結果、バッドエンド、という流れ」

 

仔月「人の愚かしさがよく描かれているなぁと思いました。独り占めせず、分かち合おうという心があれば、こんな結果にはならなかったな、と」

 

fee「そうですよね。まぁ、実際問題、人間なんてこんなもんだとは思いますけどね」

 

仔月「ははははw」

 

fee「この作品にも4~5人の人物が登場しますが、自己中が1人混ざってるだけでもうダメですからね。残りの人たちがまともでも」

 

仔月「まぁそうですね」

 

fee「全員が全員、順番を守って、という事にはならないだろうなぁと。嫌ですねぇ、人間って。あ、今回も舞台が火星なんですね。よく出てくるな……」

 

仔月「ブラッドベリは火星が好きなんでしょうかw」

 

fee「人間が住めそうな星が、月か火星ぐらいしかないんじゃないかなw ブラッドベリだけじゃなくて、SF全体として一番よく出てくるのはやっぱり火星じゃないでしょうか。しかし、なんでこの人たち火星に隔離されているんだっけ? 凶悪犯でしたっけ?」

 

仔月「病気ですね。伝染病を他の人に移さないために隔離しているという設定です」

 

fee「あぁ~~、読んでから2~3週間空いているとはいえ、全然覚えていなかったw」

 

仔月「『患者は一年ほど患って、確実に死ぬ』と書いてあります」

 

fee「作中で荒ぶっていたせいで、勝手に凶悪犯だと勘違いしてましたw 普通に病気の描写が書いてありますねw 同じくらいの容体の人同士じゃないと話せないんですね」

 

仔月「容体が悪い人は倒れているだけで、喋れません」

 

fee「ちょっと気になるんですけど、超能力者のマークさんって何がしたかったんですか? 確かにみんなで共有すればよいというのは当然ですけど、マークさんの喋り方1つ1つが争いを煽っていませんか?」

 

仔月「ww」

 

fee「『木曜日以降は僕の自由です』とか『(僕が超能力を見せるのは)ちょっぴりずつですけど、ゼロよりはマシでしょう』とか、ちょっとイラっとしません? そんな事言わないで、『術は精神力を限界まで使うので、週に3回しかできません』とか、テキトーな事を言って、場を争わない方向に導けば良いのに。振る舞い方が……」

 

仔月「本人の立ちまわり方も悪くて、余計に酷い事態になってしまった、というのもあると思います」

 

fee「挑発しているようにしか読めませんよ、これは。もちろんいくらマークさんが煽ったとしたって、利用者側(?)は彼の自由を尊重しなきゃいけないんですけど。

僕がこの場にいたら、独り占めはしないでしょうけど、やっぱりマークさんに対して苛々するでしょうね。あと半年ぐらいの寿命で、マークさんの幻を見られる時間がもうそんなに残っていないのに、勿体をつけられたら。

『自由な時間』と言われたってマークさんが何をやりたいのかもわからないし」

 

仔月「読んでいる限りでは、マークさんは自分の自由を大事にしていて、それでこんな言い方になっているのかなぁと」

 

fee「まぁ、確かにマークさんの自由ですからね。でもそれを言うなら、そもそも超能力を見せびらかす必要もなかったと思いますし」

 

仔月「ですね……」

 

fee「マークさんが超能力を見せびらかさなかったら、全部マークさんの自由だったんじゃないですか? 慈善事業とか優しさからの行動というよりは、自分を尊敬してほしい、承認欲求的な浅ましさを感じますが……」

 

仔月「まぁそうですね。自己満足を得たい、気持ちを満たしたい、偉ぶりたい」

 

fee「超能力がある限り、孤独にはならないでしょうし」

 

仔月「『必要とされるだろう』というのを計算に入れた上でやっているのかなと」

 

fee「『自分の立場が上だ』という事を強力にアピールしていますし、これは暴発するのは当然じゃないでしょうか。だから、暴発していい、とも思いませんが」

 

仔月「交渉の仕方を誤ったというのは間違いなくありますよね」

 

fee「マークさんって他人の思考が読めるんでしょ? 色々言っているじゃないですか。『一人は拳銃を持っていて、後の人はナイフしか持っていない』とか。相手の頭の中を読んで、それを景色として見せるのが、マークさんの超能力でしょ?」

 

仔月「確かにそう考えると……」

 

fee「だから、こういう事態になるのは、リアルタイムで感じられるはず。自分が撃たれる予想はできなかったにしても、殺し合いに関してはむしろ焚きつけているように見えます。『こいつらを殺し合わせたら面白そう』。台詞の1つ1つから、そんな思惑すら読み取れます」

 

仔月「銃を誰が所持しているかまでテレパシーで読んだうえで、敢えて隠し、暴発するようにわざと仕向けた結果、自分が殺されたということですか?」

 

fee「はい。そう見えます」

 

仔月「確かにマークさんの能力がそういうテレパシーだとしたら、そういうふうに読めますよね」

 

fee「『探しなさい!』とマークは言った。『拳銃を持っている人を見つけるんです。さもないと、みんな殺されますよ!』。男たちは途端に掴み合いを始めた。だが、誰が拳銃を持っているのか見当もつかない。ただ、むやみやたらに掴み合い、大声をあげるだけである。マークは、さげすみの色を浮かべて、その様子を見守った

 

仔月「www」

 

fee「『あなたがたの一人は拳銃を持っている。あとの人はナイフしか持っていない。でも、一人は確かに拳銃を持っているんです』。マークは誰か1人が拳銃を持っている事を知っている。なのに、誰が拳銃を持っているかは敢えて言わないんです。もう、マークさんねぇ……」

 

仔月「煽った上で、上から目線で皆を見下している」

 

fee「その結果、自分が事故で死んでいる」

 

仔月「そう考えると自業自得w」

 

fee「ですね、正直。最初のソールさんに対する振る舞いは何とも言えませんが、その後3人か4人出てきた後の振る舞い方は、『全員で殺し合っちゃえ~』に見えます。事故だったからこそ、マークさんには読めなかったんでしょう。『マークを殺してやる!』という思念を誰かが持っていれば、マークさんは対処できたんでしょうけど。一番邪悪だったのはマークさんだった、という可能性もあります」

 

仔月「ですね。十分その可能性はあると思います」

 

fee「という新解釈(?)が生まれたわけですが、評価は上がりました? 下がりました?」

 

仔月「ちょっと上がりますね」

 

fee「上がるんですね。僕はどっちかというと、心を打つ作品の方が好きで。マークが悪いな……って感じで突き放して読んじゃったので、逆に点数が伸びませんでしたw」

 

仔月「上がっても、ちょっとぐらいですけどね。いやぁ、マークが邪悪だということは気づかなかったなぁ。言われてみると確かに煽っていますね」

 

fee「たとえば、『ソールは青年(マーク)をなぐった。それは、目にもとまらぬ早業だった。マークは笑いながら体をかわした。「冗談じゃない、やめなさいよ!」というシーン。ソールの思考を読んで、ソールが殴ってくるのを予測していないとパンチをかわせないと思うんです。相手の思考を全部読んでいる』

 

仔月「めちゃくちゃ性格悪いですねw」

 

fee「相手をわざわざ怒らせて、殴らせてから、かわしてるんですよw」

 

仔月「最初読んだ時は、マークさんの上から目線な話し方には気づいていたんですけど、相手の心を読んだうえで、それを逆なでするような邪悪さは気づかなかった……。でも、言われてみればその通りという感じで」

 

fee「だから、マークさんって何がしたいんだろう?って。確かに、煽り屋みたいな人って、ネットなんかでもいますけどね。僕は、そういう人たちの心理は全くわからないです。聖人ぶりたいんじゃなくて、相手を怒らせて何が楽しいんだろう?って思っちゃいます。

本音を過激に言いすぎて、相手を怒らせてしまう人の気持ちは解りますけど、無駄にわざと怒らせる人の気持ちは解らない。わざわざ好き好んで他人を怒らせて、何が楽しいのかなぁ? 相手を操りたいにしても、これはやりすぎのような……」

 

仔月「心が読めるんだから、事態を良い方向に導くことだってできたはずですよね」

 

fee「相手を納得させるような話し方を選んで、共同体を良い方に導く事もできたと思います。相手が誤解したら、即座に誤解を解く事もできるのに、わざわざ火をくべて回って。まぁ、そこも含めてよくわからないんです。

みんながマークさんを共有すれば幸せになれたのに、人は邪悪だから、争ってしまうんだねという話なら、ブラッドベリの悲観的な『みんなで、ものを共有して大事にしましょうよ』という教訓話に読めますけど、そうじゃないように見えるんで。じゃあ何を訴えたくて書いたんだ?と思いました」

 

仔月「実際、何が書きたかったんでしょうw」

 

fee「何が書きたいかがわからないから低評価、というのもあれですけど、ちょっと腑に落ちないところはあります」

 

仔月「マークさんも含めて、自分勝手で欲深い人間だという事で、そういう事が書きたかったんでしょうか」

 

fee「それだと、『人間はしょうもないね。うん、知ってた』くらいの感想しか湧かない……。僕の勝手な好みとしては、マークさんの死を意味あるものにしたかったんですけど。今回は利己心から失敗しちゃったけど、次に超能力者が来たら、今度こそみんなで譲り合って大切にしよう、みたいな話が良かったんです。でも、こんな奴(マーク)は殺されても仕方ないじゃんとしか思えなくて。邪悪さを書きたい、というほどホラー的に研ぎ澄まされているわけでも……」

 

仔月「そこまでは……」

 

fee「マークさんが一番の悪者だったんですけど、まさかの事故死を遂げてしまったんですね。きっと火星の病院を回って、いろんなところで殺し合いをさせて楽しんできた人かもしれないですね」

 

仔月「マークさんは初登場シーンで、ロケットからやってきたみたいです」

 

fee「じゃあここが到着後最初の病院なのか。でも全員を殺し合わせてマークさんは孤独になって、それでいいんでしょうか? 何がしたいんだろ」

 

仔月「マークさん自身も病気で、先がないので。破滅的な思考に陥っていたんですかね」

 

fee「やりたい事をやってやったぜ!みたいな?」

 

仔月「はい」

 

fee「その可能性はありますけど、まだ寿命の猶予はありますよね」

 

仔月「火星に来たばかりなので、他の人に比べれば猶予はあると思います」

 

fee「4か月ぐらい経ってからならね。今、殺し合いをさせたら1年間退屈じゃないですか」

 

仔月「人を弄んで楽しむような性格なら、なおさら誰もいなくなっちゃったら退屈ですよね」

 

fee「遊び道具をすぐに使い潰しちゃってね。それとも撃たれる事も想定した、マークさん流の自殺だったのかな? 謎は深まるばかりです」