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☆『恋愛で死神』
fee「点数高いですね!」
仔月「はい」
fee「荻原さんという服屋のイケメン店員が今回の対象者です。荻原さんはわざとダサい眼鏡をつけてイケメンを隠している。そんな彼は、古川麻美さんという女性に片思いをしています。古川さんはストーカーに悩まされていて、最後に荻原さんが亡くなります」
仔月「大雑把に言えばそうなりますねw」
fee「バーゲンにやってきた古川さんと出会い、古川さんにストーカーに間違えられそうになって誤解を解いたり、映画の話をしたり、ストーカーが汚して行ったドアを一緒に綺麗にしたり、色々恋愛フラグを立てていましたけど」
仔月「ww」
fee「フラグを回収する前に終わっちゃいました……」
仔月「タイトルどおり恋愛の話がメインですが、その恋愛描写がとても良かったなぁと思いまして。それから、荻原さんが癌に罹っていたという真相も、『病死に関しては死神は不関与』というルールをうまく活かしているなと感じて、面白かったです。大体この2点でしょうか」
fee「癌だった、という設定は、僕は割と微妙な評価です。先ほど『吹雪に死神』の話で作者の工夫やテクニックの話をしたと思うんですが、これもその1つ。巧いな、とは思うんです。だけどちょっと無理やりかなとも思って」
仔月「あぁ~~」
fee「今回の話って、千葉さん、酷くないですか?」
仔月「ふふふふw はいw」
fee「最初の『死神の精度』以外は、千葉さんは『可』を出して対象者を殺しちゃうわけですよね。『死神と藤田』の藤田さんは本望の死を遂げた感じだし、『吹雪に死神』の田村さんは息子も旦那も亡くしてかなり追いつめられているので、慈悲の死かもしれません。『恋愛で死神』も癌だから、という『逃げ道』をあげているなと思ったんです」
仔月「なるほど」
fee「確かにこうすれば、『熱愛カップルを引き裂くなんて、千葉さん酷くね?』というネガティブな感情を、『癌だったから千葉さんがいなくても死んでいた。千葉さんがいたから、彼女を守って死ねた』と、死の意味をポジティブに転化できます。けど、この癌設定がなければ千葉さんが酷いなと、感じたと思います。これから恋愛が始まる一番楽しいところなのに。で、癌の設定が出てくるのは最後だし、千葉さんも知らなかった」
仔月「ですよね」
fee「荻原さんが癌だという設定がなかったとしても、このストーリーは成り立つはずです」
仔月「唐突過ぎて公平さに欠ける感じですか?」
fee「公平さは、特に気になりませんでした。唐突過ぎて、作者の工夫、作者が悩んだ跡みたいなものが、透けて見えたという感じです。
僕は作者本人じゃないので邪推でしかありませんが、伊坂さんは悩んだんじゃないでしょうか? 『普通に書くと千葉さんが悪者になってしまう。どうすれば悪者じゃなくなるかなぁ? どうにかして読者が主人公を悪く思わないようにしたいなぁ』って。癌だったという設定を入れれば、千葉さんが悪者にならない。そういう作者の悩んだ跡が見えすぎているように感じます。
そういう意味では面白かったんですが、作品として面白いかどうかはまた別ですよね」
仔月「その辺の意識はぼくにはありませんでした。千葉さんが悪者になってしまうという理屈は確かにわかるんですけど、千葉さんというか死神族全体は価値観が根底から違っているので、悪者だという感覚がなくて。だからそういう視点はなかったです」
fee「僕は死神族全体が、『THE・お役人』のイメージなんです。借金取りにたとえてもいいですけど。『借金したんだから返してよ』っていう当たり前の事ではあるんですけど、『うまくまとまりそうな商談が明後日にあるので、明後日まででいいから待ってください』と泣きついても、『今日返す約束だったんだから、絶対に今日返してください』的な。
『規則は規則だから』という、融通の利かない非情さみたいなものを感じます。千葉さんはそれなりに頑張ってはいますけど、大して深く考えずに『可』を出しますよね。調査というのは形だけで、単に遊びに来ているように見えるんです。最初の藤木一恵さんだって何となく『見送り』にした感じ。藤木さんの将来性だとか、あるいは藤木さんの人物像を真剣に考えて、『可』にするか『見送り』にするか判断しているんじゃなくて、機械的に『可』にしているように見えます。
役人の仕事としては基本的には正しいんですけど、やられる方としてはたまったもんじゃないよなとも思うんです。一人のワガママを通したら、制度やルールは成り立たないという正論は非常にわかるんですが、個人の事情についてはどうでも良くて、ただ機械的に規則を押し通すような」
仔月「はい」
fee「その、死神族全体の悪印象を和らげるため、千葉さんをユーモラスに描いている。
ズレてボケている感じで、極力悪者臭を消す方向で書いています。その最たるものが今回の癌設定だなと思ったんです。千葉さんがウザかったら、読んでいて辛い」
仔月「程度にもよりますけど、確かに」
fee「かと言って、千葉さんが全部人助け(見送りに)していたら物語が変わっちゃう。6人全員助けて、人の好い死神では物語にならないので、基本的には殺す必要がある。その枠組みの中で、可能な限り千葉さんにネガティブ印象を与えないように書いているなぁ、って」
仔月「なるほど……」
fee「こういう設定の話を書きたい時に、そのままストレートにやったら『主人公がムカつく』になってしまう。かと言って主人公が悩みまくると、ウジウジ悩みやがってとか、悩んだ末に殺すのかよ!とか色々ツッコミが入ってしまう。
だから批判が向かないような、『この人なら仕方ないね』的な、ちょっとボケたようなキャラクターになっている。
千葉さんに感情移入するんじゃなくて、千葉さんを遠くから眺めるような。本の中に入って楽しむ作品じゃなくて、役者さんを見て楽しむ感じです。伊坂さん自体がそういう作風なんだろうと思いますが、僕は作品世界に入って一喜一憂するのが好きなので、そういう意味ではちょっとノレない部分はあったりするんです」
仔月「設定をうまく使ってきたな、という意識はありました。ただ、千葉さんに嫌悪が向かないように処理している、というのは考えていなかったです。ぼくはこの作品でも、それ以外でもそうなんですが、登場人物に対してマイナス感情を抱く事があまりなくて。それでピンと来なかったのかなと」
fee「僕は『死神と藤田』だったら、『藤田! ハメられるんじゃねぇぞ!!』とか『阿久津がとうとう立ち上がったか!』みたいに、前のめりで読んでいますからねw」
仔月「ぼくは千葉さんのズレたやりとりが面白いなーと思って読んでいました」
fee「この作品に関して言えば、仔月さんのような読み方の方が楽しめると思いますw 僕は誰かに感情移入して読む癖があって。となると『恋愛で死神』を読むときに誰に感情移入するかというと、荻原さんになっちゃう」
仔月「ですね」
fee「荻原さんに感情移入すると、これから恋が始まる時に死んでしまったという、非常に残念な気分になるんです」
仔月「確かに、重いですね」
fee「その上で、荻原さんは知らないわけですが、読者視点では『千葉さんが見送りと言えば、荻原さんは死なずに済むのに』という気持ちが生まれる。そして最後に、実は癌だったと聞けば、癌だったら仕方ないねって。こういう形での最期でも良かったねってなる。この思考の誘導は、最後の唐突な癌の設定で作られたもので、癌設定がなければ『千葉さんふざけんなよ!』になっていたかもしれない。なるほどね、「千葉さんふざけんなよ!」にしないためにこういう設定を入れたんだなと思って読みました」
仔月「いやぁ……これは1人で読んだら絶対に気づけなかったポイントだと思います。そういう読み方自体が不得意なので」
fee「物語を純粋に楽しむなら、素直に読んだ方が良いと思いますよ。僕がひねくれているだけでw」
仔月「ははは」
fee「荻原さんが死なないとマズい。死神が判断ミスをして悔やむような話でもいいけど、そういう深刻な話じゃなく、軽妙な話にしたいなら、死神が悪くない事にしないといけない。恋愛もちゃんと書かないといけない。荻原さんや古川さんの想いをきちんと書かないと、恋愛モノとして面白い話にならない。けれど、恋愛を書けば書くほど千葉さんが悪者になる。古川さんや荻原さんも立てつつ、千葉さんの株も落とさないように、伊坂さんは悩んだと思うんです。悩んで癌という設定を思いついて、それで解決したんだろうなぁ。よく思いついたな!と拍手を送りたい気持ちもあるんですけど、その『よく思いついたな!』というのが透けて見えちゃうのはどうなのかなって」
仔月「はいw」
fee「そういう意味で凄く誠実だとも思います。伊坂さんは、細心の気配りをして書いている。荻原さんを立てながら、千葉さんの株も落とさないという難題に対しても、きちんと解決している。工夫も見えるし、丁寧な仕事だと思います。
作者さんの中には『こまけぇこたぁいいんだよ!!』みたいな力業を使う方もいますし、それで面白ければいいんですが……そこまで面白くない場合は、凄くサボっているように感じて白けてしまう」
仔月「あぁ~~~~www」
fee「伊坂さんだったら絶対考えると思うんですよ。全部理由をつけて、読者に納得させる努力をする。ちょっと考えればすぐに解決策が出せるような粗が、そのままになっている作品もありますよね。
僕が細かいところを叩く作品って大体そうなんですよ。あれは、悪口や批判に見えるかもしれませんが、『こうしてくれれば楽しめたのに』という気持ちの表明でもあるんです」
仔月「feeさんはたまに凄い勢いで粗を叩く事がありますよねww」
fee「細心の注意を払ったって、ミスは生まれるんです。1つ2つのミスは仕方ないとは思うけど、『こまけぇこたぁいいんだよ!』で読者が許してくれるなら『作者は楽が出来ていいなぁ』とは思います。ミスがあってもいいけど、ちょっとは考えてくれよ!っていう。
そういうのが一切気にならなくなるぐらい面白ければ、別に気にしないので、その辺はダブルスタンダードではあるんですけどもw」
仔月「はいw」
fee「せめて伏線があればなぁ。荻原さんが若者なのに達観しているなぁ、ぐらいの伏線はありますが……」
☆
fee「どうでもいい話ですが、NHKがラジオドラマを制作していまして、『恋愛で死神』の古川さんの名前が吉川さんにされていたのがとても気になります。漢字が似ているから、製作者が間違えたのか!?と色々考えてしまうと夜も眠れません」
仔月「気になりますねそれはwww」
fee「ラジオドラマは全5回でして、何故か『旅路を死神』だけドラマ化されていないのも。なんで1つだけ仲間外れにしたのかな。5つやったんなら、どうせなら6つやって下さいよ!と思いました。
ちなみにラジオドラマは原作に相当忠実に作られていますが、1話15分なので……」
仔月「それは相当コンパクトですね!」
fee「はい。未読者が聞いても、あっさりして終わるだけだと思いました。既読者がストーリーを思い出すのにはとても便利でしたが。原作と話は同じなので、『原作を改悪すんなよ!』みたいな不満はないんですが、15分というのは短すぎました。
恋愛描写の話もしましょうか」
仔月「P188に『自分と相手が同じことを考えたり、同じことを口走ったりすると、何だか幸せじゃないですか』という台詞があって、その台詞を起点に恋愛描写が描かれているのが、好きです」
fee「荻原さんと古川さんはすごく気が合いますよね」
仔月「ですねw」
fee「趣味も一致しているようですし。恋愛というか、人間関係にはそういうところもありますよね。どこかしら自分と似ている人を好きになる。
僕で言うなら、僕は読書、サッカー、バスケ、ゲームが趣味です。趣味自体は合わなくてもいいんですけど、漫画や映画やドラマも含めて『何かしらのフィクションを楽しめる人』。実益の事だけしか考えていない人じゃなくて、フィクションで感動したり感情移入したりする人が良いなとか。弱い立場の人に対しても優しい人が良いなとか。そういうのはあります。
『話が通じる人』、相手の意見も聞く人。考え方や感性が似ている人。似ていなくても、折り合えるぐらいの距離にはいないと、何かを分かち合う事なんてできないし、何も分かち合えない人と親しくしたいとは、僕はあまり思わないので」
仔月「ですよね」
fee「店長はもう少し活躍するかなと思ったんだけどなぁ」
仔月「あ、確かにそれはあります」
fee「空気の読めない千葉さんが、執拗に片思いの話をしようとするシーンや、チケットの話も面白かった」
仔月「よけいな事ばかり言っていますねw」
fee「ほんとに。そこが面白いわけですけど。ちなみに、悪質な勧誘に悩まされている古川さんですが、これは明らかに悪質勧誘とは別物だと思うんですが……こんな勧誘する人いるんですか?」
仔月「探せばいるかもw」
fee「僕は昔、悪質な勧誘にあった経験があるんですよ。電話がジャンジャンかかってきて、勝手に約束とかを入れられて、5時間ぐらい缶詰にされて契約するまで帰してもらえないような」
仔月「それはとんでもないですねw」
fee「そんな事されたって、契約するわけないんですけどね……。それ以来、知らない人のアンケートには答えない、署名もしない、手相も見せない、人間不信の塊みたいになっちゃいました。
『今なら半額!のような感じで焦らせる』、『強引に話を持って行って、勝手に約束した事にする』、『約束したんだから~のようにこちらの良心につけ込み、断るこちらが悪いような気分にさせる』。やり口はそんな感じですね。オレオレ詐欺とかもそうで、結局は相手を動揺させて思考停止させたいんだなーと思いますけど、控えめに言っても最低な裏稼業だなぁと思います。
でもさすがに、電話番号から住所を調べて、嫌がらせをして、最後には刺しに来るなんてありえないですよ。だって勧誘だもん。カモっぽい人に多少は付きまとっても、1人に散々時間を使うより、次のカモを探した方が速いはず」
仔月「勧誘という目的を考えれば確かにそうですよね。ここまでするのは過剰かなと」
fee「あり得ないと思いました。本当に勧誘なのかな? 『死神の精度』で、音楽プロデューサーがクレーマーだったエピソードに関連づけているのかなとは思ったけど。最初は勧誘だったけど、声に惚れたか何かしてストーカーになっちゃったんじゃないですか?」
仔月「ありそうですねww」
fee「音楽プロデューサーも最初は本当にクレーマーだったのが、途中からスカウトになったので。本当に悪質勧誘者に刺されたのかどうかもわからないけど」
仔月「はいw」
fee「悪質勧誘とは別に、ストーカーもいたのかもしれません……。設定上の事で言うなら、死神がついている人が死ぬのは良いとして、死神がついていない人は死なないんでしょうか?」
仔月「設定上は死なないんじゃないかなぁ」
fee「たとえば『吹雪に死神』の場合は、連続殺人事件ですが、死ぬ予定の人にはみんな死神がついているんでしょうか? いろんな人に死神がついていたと思うんですが、英一や料理人にはついていなかったと思います」
仔月「ついていないですね」
fee「ということはこの二人は最初から無事が約束されている?」
仔月「そうなります」
fee「デリケートな話で恐縮ですが、数年前、日本でも大災害が起こって大勢の方が亡くなられたじゃないですか。
『死神の精度』の設定で言うなら、大勢の死神が被災地にひしめいていた、という事なんでしょうか?」
仔月「死神だらけになりますね」
fee「大抵の作品だと『死神は、死ぬ予定の人にしか見えない』みたいな設定がありそうなものですが、今回の作品では皆に見えているようですし」
仔月「全部関与していると考えると、死神も忙しい業務だなぁ……」
☆
fee「悪質な勧誘会社は芳神建設っていうんですね。何を勧誘しているんでしょう? 建設会社でしょ? マンション買ってくださいとか言うんですか?」
仔月「P181で『え! あなた、マンションに興味がないんですか?』っていう台詞があります」
fee「あ、ほんとだ。……マンションを買うのって、相当なお金かローンを組まないと無理ですよね」
仔月「ですね」
fee「古川さん(21歳)にかける電話ではないですね。古川さんがめちゃくちゃ金持ちだという情報でも掴んだんでしょうか?」
仔月「こういう会社がどういう基準でカモを選んでいるのかがよくわからないですけど……」
fee「電話番号を適当にかけた可能性が高い気がするけど、英会話教室とか通販のブレスレットとか魔よけグッズとかなら良いかもしれないけど、マンションなんて勧誘されてホイホイ欲しがる人が沢山いるとも思えないんですが。
大抵の人にとっては一生に一度あるかないかの大きな買い物ですし、欲しがる人はまず自分から申し込みに行くのでは?」
仔月「そうですね」
fee「普通に考えて21歳の女性に対して粘ったってねぇ。よほど古川さんがマンションを買いそうだったんでしょうか?」
仔月「最初からマンションを買う事に後ろ向きですけどね、古川さん」
fee「ちょっと話を長く聞いただけですよね。その程度でこんなに粘るとは思えないなぁ。そもそも現代では知らない電話番号から電話がかかってきたら、まずネットで調べますよね。すると大体、〇〇会社の勧誘ですって書き込みがあるので折り返さない」
仔月「はははw」
fee「話は変わって、荻原さんがダサ眼鏡をかけている理由として『外見が良いので女性が寄ってくる。外見目当ての女性を排除したい』とありますけど、これって本当なんでしょうか?」
仔月「荻原さんが嘘をついているという事ですか?」
fee「それ自体は本当でしょうけど、本当に理由はそれだけなのかな?って。女性が寄ってくる、までは良いとして、寄ってきて何がマズいのか」
仔月「あぁ~。荻原さんは見た目で判断されたくない」
fee「それは勿論ですが、もっと深い意味があるんじゃないかな、と」
仔月「ぼくは言葉通りに受け止めてしまいました」
fee「それでもいいんですけど、癌の設定があるじゃないですか。恋人を作ったら、近い将来相手を悲しませてしまうので申し訳ない、という意図があるのかな?と思って」
仔月「そういう意図があるならば、古川さんと近づきたいという荻原さんの気持ちが矛盾してしまいませんか?」
fee「1年後に死ぬ自分でもOKしてくれる人なら欲しい、とか。頭では『恋人を作るべきではない』と思っていたけど、古川さんを『本当にめちゃくちゃ好きになってしまって』理性がぶっ飛んでしまったとか。あるいは、ここまでお近づきになるつもりはなかった可能性もあります。
古川さんかわいいな~と思って、ちょっとおしゃべりしておしまい。恋人になるつもりはなくて、道であいさつするだけで十分だと思っていた可能性。もっとズルい感じだと、自分からはアピールはしないし敢えてダサ眼鏡もかけているけど、こんな俺でも良いなら誰か愛してくれ、みたいな。最後の1年幸せになりたいけど、こちらからアピールして付き合ったら騙しているみたいだし。向こうから好きになってくれたんだったら、良いかな。でもそれも外見で釣るのは騙しているみたいになるし、とか」
仔月「色々ありますねぇw」
fee「人間はいつか死ぬので。80年後に死んでいるから誰とも付き合わない、とはならないわけで。1年後に死ぬからと言って、恋人を作っちゃいけないわけでもないんです。死刑囚だって結婚していいし、ご老人が結婚したって良いわけですし。
相手に悪いという優しさ、罪悪感、心苦しいというエゴも含めて、色々負担もありますけど。
そこまで考えて、そういう負担を背負わないために荻原さんが眼鏡をかけていたのか、単純に外見で判断されたくないだけの理由で眼鏡をかけていたのか。どちらとも取れるけど、恋愛描写を深く楽しむなら、荻原さんの思惑は大事かなと」
仔月「ですね」
fee「癌で死ぬから恋人を作るつもりはない、と思いながらも古川さんに惹かれちゃったのか、単に外見で判断されたくないだけなのか。どちらでも良いですが、個人的には『自分が死ぬから眼鏡をかけていた』という説を取りたいです。それぐらいの理由があるなら、癌設定も生きてくるので」
仔月「なるほど」
fee「荻原さんの恋愛、荻原さんがダサ眼鏡をかけている理由に癌設定を絡められるなら、単なる千葉さんへの嫌悪逸らしの設定じゃなくて、作品を深める設定になります。
古川さんの前ですらダサ眼鏡をかけ続けている荻原さんの心境とか、色々考えることができる。こういうウジウジした葛藤は大好きなんですけど、敢えてウジウジと書かずに、そういう風にも読めるよ~と軽く流す伊坂さんの、良い言い方をすれば上品でさりげなく、奥ゆかしいところ。悪く言うと、僕的にはちょっと物足りないんですが、万人向けにするならこれぐらいの方が、重くなり過ぎず、重く読ませることもできるなと思いました」
仔月「考えてもいなかったですねw いや、ほんとに書いてある事をそのままに読んでいました。この作品に限った話ではなく、登場人物の心の機微を読み取るのに疎いところがあって。表面どおりに受け止めやすいんです。今回に限った話じゃなく、他の方の感想で気づかされることが凄く多くて。その可能性に想像が至らない、念頭に浮かばないんです。言われて初めて、なるほどってなる……」
fee「僕はひねくれているので、幾つか可能性を思いつくんですよ。で、幾つかある中で一番自分好みの感想を提出したり、飛びついたりする。深読みができているのか、単なる僕の妄想なのかはわからないですし、自分好みに誤読している可能性もあります。
たまに『feeさんそれは誤読ですよ。こう読むのが正しいです』みたいな反論をいただく事もあって、誤読に気づく事もあるんですが、その場合たいてい評価が下がるんです。
『確かに、相手の反論の方が正しいな。でもそれだと、ますますつまらない作品だなぁ。どうやら50点の作品を、僕が誤読して70点をつけていただけだったか』ってw」
仔月「せっかく良いと思っていたところが、覆されてしまうというw」
fee「僕個人としては、誤読したまま良い作品だったなーと思ったままの方が幸せですけど、
あまりにも間違った誤読をして作品を褒め、それをネットに書き込んで良いのか? という問題もありますね。
まぁ、誤読に気づいちゃったら訂正する、誤読かどうか判断できなければ、とりあえず自分好みの解釈を取る、という感じです」