点数表につきましてはこちらをご覧ください。


☆「死神の精度:短編集」

*短編集の『死神の精度』は『』で、表題作の「死神の精度」は「」で表記します。

 

仔月「この作家さんは初めて読みますが、全編通して千葉さん(主人公の死神)の強烈なキャラクターというか、キャッチ―なところに魅力を感じました。一番印象に残ったのがそこで、逆に言うと他の部分での加点は少なかったので、全体の点数は70点ぐらいになります」

 

fee「僕もそれくらいかな……70点よりは高いから、74点にしましょう。伊坂作品は、随分前に2~3作読んだきりなので、今回はとても久しぶりの読書になります。
その時の記憶では、『そこそこ面白かったなぁ』というのと、『万人向けだなぁ』というのと、『超面白いというほどではないなぁ』と。今回読んでみましたが、印象は変わらなかったです」

 

仔月「はははw 万人向けと言われれば確かに。とても読みやすいので」

 

fee「読みやすいですね。流れるような文章で、非常に読みやすい。ドギツイ話もないし」

 

仔月「この作品は連作短編集で、死神の千葉さんというキャラクターが毎回語り手を務めています。全編共通のルールがあるんですよね」

 

fee「突発的な死は死神の仕業で、『病気』や『老衰』のような進行性の死は、死神とは無関係、という感じですね。僕は、死神からお役人を連想しました。上の役所で調査対象者を決めて、下っ端の死神が1週間調査をする。調査が終わると、対象者の生死が決まる。調査中は対象者は死なない。で、まぁ調査はたいてい『可』、つまり対象者は死ぬことになっている」

 

仔月「はははw」

 

fee「というのが基本設定かな? 死神に触られると気絶する。寿命が1年縮むという設定もありましたけど、これはどうでもいいか」

 

仔月「あまり活かされていなかったと思います(苦笑)」

 

fee「千葉さんも含めて、死神族全体が、音楽大好き!という設定もありましたね。他には、死神の名前は基本的に地名からとられている。千葉さんとか、秋田さんとか蒲田さんとかその他モロモロ。……言う必要もないかもしれないけど、場所は全部日本です。死神は海外にはいないの?」

 

仔月「どうなんでしょうか?」

 

fee「海外出張はしないんですね。転勤とかあるのかな? そんな話はどうでもいいかw」

 

仔月「はははww」

 

 

☆表題作「死神の精度」


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fee「50点! 低いなぁ(驚)」

 

仔月「はいw」

 

fee「まず先ほど話した『基本設定』の紹介があります。この作品を読んで、『この短編集全体のルールを読者に理解してもらおう』という導入編にもなっている。後付け設定はなくて、この作品で全ての設定を出してきているのはフェアですよね」

 

仔月「ですね」

 

fee「あらすじ行きます。今回千葉さんが担当するのは藤木一恵さん。クレーマーに悩まされているかわいそうな女性です。ルックスも『醜い』(自称)らしい。ロクな事もないし死にたがっています。特に最近は悪質なクレーマーに悩まされているんですが、そのクレーマーの正体が実は!? というのがあらすじになります」

 

仔月「うーん……なんて言うのかな……」

 

fee「50点ですからね(苦笑)。遠慮せず叩いてくれて構いませんよ!」

 

仔月「まず、オチがわかりやすかったというか……」

 

fee「そうですよね(前のめり)!! めちゃくちゃバレバレですよね!?」

 

仔月「基本的にこの短編集は、何らかの謎を最初にちりばめておいて、最後に回収する話が多いと思います。ミステリと言っていいかはわからないんですが、ぼくはそういう文脈で読みました。そういう文脈で読むと、真相がバレバレだと面白くないのではないか?と思って、50点をつけました」

 

fee「そうですね。この作品のジャンルは何か?と聞かれると微妙なところはありますけど、一応ミステリの賞を取っています。ミステリとして読んだら、この表題作は駄作……」

 

仔月「ははは(苦笑)」

 

fee「ただ、これはしょうがない部分もあって。ミステリで短編を書くのって難しいと思うんです。何故かというと短いから、登場人物が少ない」

 

仔月「ああ、なるほど!」

 

fee「千葉さんと藤木一恵さんを除くと、同僚の死神と、同僚がプッシュしている音楽プロデューサーぐらいしか出てきません」

 

仔月「あとはクレーマーの人」

 

fee「そうなんだけど、ミステリになぞらえるなら『クレーマー(犯人)の正体』を予想して読むわけで。現実では全く無関係な人がクレーマーかもしれませんが、『犯人(クレーマー)当て』ミステリとして読んだら、今まで出てきた人が犯人。となるとクレーマー候補は音楽プロデューサーぐらいしかいません

 

仔月「ですよねw」

 

fee「同僚も不自然な感じでプッシュしまくっていますし、これはバレバレと言われても仕方ないですね。ちなみに、現実にクレーム処理係から歌手になった方がいたらしくて、そこから着想を得たのかもしれません」

 

仔月「ふむふむ」

 

fee「ただ、wikipediaによると、実際にはクレーム処理係をやっていた事があるだけ、みたいです。クレーム処理係をした後結婚して、結婚後に地元の音楽会で入賞したらしいので」

 

仔月「経歴だけ考えると、この藤木一恵さんとはちょっと違いますね」

 

fee「まぁ僕は全く詳しくないので、wikipediaを信じるならばですけどね」

 

仔月「ぼくもまったく詳しくないです」

 

fee「この短編集はストーリーについてよりも、気に入った細部のシーンを話す方が盛り上がりそうですね。

P9の最後の行で、『若い大統領が時速十一マイルのパレード用専用車の上で狙撃されようと、どこかの少年がルーベンスの絵の前で愛犬とともに凍死しようと、関心はない』とあります。

これはエロゲでもよく見るパロディというか蘊蓄ネタで、わかるとニヤッとできる」

 

仔月「わからなかったですw」

 

fee「前者がアメリカのケネディ大統領で、後者が『フランダースの犬』かな」

 

仔月「なるほどw」

 

fee「わからなくても話の流れを遮る事なく、洒落た感じでパロディをさらっと出してくるのは良いなと思います。幅が狭すぎてオタクネタしか出さないようなパロディと比べると、レベルの差は歴然です。アメリカ大統領とフランダースの犬を瞬時に持ってくるのは、幅が広い……というよりパロネタをやるならこれぐらいはやってほしい。『ドラゴンボール』と『孤独のグルメ』と『20世紀少年』のパロディを連続で見せられても、幅狭いな~って思っちゃいます」

 

仔月「しかも知らないと楽しめないネタもありますしねぇ」

 

fee「知っていればにやりとできる、はアリですが、知らないと意味不明でつまらないやりとりは、パロディとしてダメですからね……」

 

仔月「以前も仰っていましたねw*1」

 

fee「アメリカの大統領と書いた後で、『ケのつくあの人ですけど』みたいな『解ってほしそうなオーラ』を出すのではなく、あくまでもさらっと流すような感じが僕は良いと思いました。

フォントを大きくしたり、テレビのバラエティで字幕をつけたりするような『ここ笑うところ!!』的なプッシュの仕方よりも、こういう奥ゆかしさの方が僕は好ましく感じます。雨男と雪男のシーンも良かった」

 

仔月「P33かな。


雨男なんですね』と彼女は微笑んだが、私には何が愉快なのか分からなかった。けれどそこで、長年の疑問が頭に浮かんだ。『雪男というのもそれか』『え?』『何かするたびに、天気が雪になる男のことか?』彼女はまた噴き出して、『可笑しいですね、それ』と手を叩いた。不愉快になる。真剣な発言をユーモアだと誤解されるのは、不本意だった

 

fee「千葉さんってこんなキャラですよねw」

 

仔月「言葉の捉え方がズレていますね(笑)」

 

fee「ズレているというか、人間でもこういう人はたまにいますけど……」

 

仔月「一種のカルチャーギャップかなと思って読んでいました」

 

fee「僕は『空気が読めない人』かなって……」

 

仔月「死神族全体がこんな感じなのかなと思って。感覚の違いというか」

 

fee「みんな音楽が好きみたいですし、感性が同じならそうかもしれないですね。死神族にも多少個性はあるみたいですが。

犯人の話に移りますが、こんなクレーマーが来たら嫌ですね」

 

仔月「こんな人が来たら困りますよねぇ」

 

fee「女性が病んで自殺しちゃったら、クレーマーが殺したようなものでは?」

 

仔月「ですよね」

 

fee「これが表題作というのはどうなのかな?と思いました。収録作品中、この編が一番つまらなかったので。ルール説明をしている以上、この編から読むことになるわけですが、初っ端の作品で読むのをやめちゃったら勿体ないなと思いました」

 
*1 http://blog.livedoor.jp/feezankyo/archives/10839436.html 『止まり木の足りない部屋」『つよきす三学期』対談 蟹沢きぬ編 当該発言につきましてはこちらを参照ください。

 

☆『死神と藤田』


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fee「結構(点数)高いですね」

 

仔月「はい」

 

fee「今回の対象者は藤田さんです」

 

仔月「藤田さんはヤクザで、どれくらいの地位にいるかというと……」

 

fee「中間管理職くらいでしょうか。そこそこ上の」

 

仔月「はい。藤田さんに接触するため、藤田さんと敵対関係にある栗木さんの情報を餌に、部下の阿久津さんと接触。そのまま、藤田さんと会います。藤田さんは栗木さんに落とし前をつけさせようと乗り込もうとするんですけど結局行かず……」

 

fee「藤田さんの上の人は、藤田さんを切り捨てて、栗木さんと仲良くしたい。それを知っていてなお、藤田さんは栗木さんに落とし前をつけさせようとする。しかし藤田さんが暴れる前に阿久津さんが先回りして乗り込んでしまう。主人公の千葉さんもそれに付き合う事になります。

千葉さん視点だと藤田さんの死ぬ日が解っている。逆に言えば死なない日も解っている。なので藤田さんが死なない事が分かった上で、千葉さんは藤田さんに助けを求めます。最後は藤田さんが乗り込んでカッコよく相手をのしたんでしたっけ?」

 

仔月「そこまでは書いてないですw」

 

fee「そうだっけw、でも多分のしたと思いますw 栗木さんには死神がついていて、栗木さんが先に死んだのは確定なので。というわけでどうでした?」

 

仔月「千葉さんのやりとりが面白かったです。P52の『おっさんくらいの年齢だと、年貢の納め時、とか言うんじゃねえの』『年貢制度は今もあるのか?』」

 

fee「こういう人ですよね、千葉さんは(苦笑)」

 

仔月「こういうやりとりが面白かったw 栗木さんのボディガードの男が、実は同僚の死神だったというのが今回用意された謎でした。【調査が終わるまで対象者は死なない】というルールを活かした上で、最終的に藤田さんを呼び寄せる展開も見所だと思います」

 

fee「そうですね。その辺は結構大事なところで。

阿久津さんが暴走しなかったら、藤田さんは仲間にハメられて死んでいたんでしょうか? 栗木さんにも死神がついているから、栗木さんは何かの理由でこの日に死んでいたんですよね」

 

仔月「それは確かです」

 

fee「何日か先に藤田さんをハメるための罠が用意されていて、その日に藤田さんが死ぬことになっていました。ただ、首謀者の栗木さんはこの日に死んでいる。

藤田さんの上の人は、それでもなお栗木さんの残党と仲良くしたくて藤田さんをハメるのかな? 何の関係もない交通事故で亡くなっている可能性もありますよね。

その場合は、仲間の裏切りによって殺された藤田さんの死が、千葉さんの行動によって、不慮の事故に書き替えられたかもしれない。無念の死だったはずが、部下を救って華々しい死に書き換えられたのかも。千葉さんの行動が藤田さんの死に意味を与えたのかな?と思って読んだんですけど……(自分で言っておいてなんですが、後から考えたらこの解釈は無理筋な気がする)」

 

仔月「その視点はぼくにはなかったです」

 

fee「仔月さんは、『主人公が何をしたって、どうせ結果は変わらなかった』と?」

 

仔月「そうだと思っていましたw」

 

fee「かもしれないけど(笑)

後は、藤田さんが言っている『任侠』世界の哲学話とか。イキリの阿久津さんが板挟みで大変そうで。最後阿久津さんは暴走して頑張りましたけど、今後大丈夫かな?」

 

仔月「立場的に心配ですねw」

 

fee「ね。でもまぁ、阿久津さんは頑張れて良かったと思いました。阿久津さんがこのまま卑怯なオトナになってしまうか、藤田さんの意志を継ぐカッコいいヤクザになれるかの瀬戸際だったかもしれないし」

 

仔月「そう……ですねぇ。ぼくはヤクザがカッコいいという感覚がピンと来なくて。藤田さんの言っている哲学もどうも……。だから阿久津さんがカッコ良くなるかどうか、というところには目が行かなかったです」

 

fee「僕の73点はそこを評価しての73点だったんですけどw そこがピンと来ないと僕だったら点数が低くなっちゃうな。

ヤクザというのは、国とか法律で守られていないハズレ者たち、社会不適合者の集まり。国とかも守ってくれないけど、自分たちは独立してやっていく。そのためのルールとして堅気の者には手を出さない。敵の組も含めて同業者なので、ヤクザ同士では喧嘩をしても、民間人は殺しちゃダメ。

現実のヤクザ事情は知りませんが、フィクション上のヤクザ、あるいは藤田さんが言いたいのは、そういう事だと思うんです……」

 

仔月「あぁ~、はい」

 

fee「裏稼業の人って多角的にやっていて、暴力専門の人と、売春や麻薬のような利益を求めるヤクザで違う気もしますけど」

 

仔月「そうなんでしょうか。ぼくが疑問に思ったのはまさにそのところで。作中で阿久津さんが『弱きを助ける』と言っているじゃないですか。そういう側面はあっても、ヤクザの行動には弱きをくじいている部分もあると思うんです。なのに自分から『正義の味方』ぶるのはどうなのかなって。自分たちの良くないところに目を瞑っているんじゃないかと……」

 

fee「敢えて藤田さんの擁護をしますが……たとえば売春の場合を考えてみます。

国は売春を禁止していて、ヤクザがいなかったら売春が出来ないとする。戦後あたり、結構そんな感じだったと思うんですが……。ヤクザがいて、売春をあっせんする。ヤクザは売春婦の儲けから場所代を取る代わりに、警察が来た時や、性質の悪い客が来た時にボディガードをする。

売春をしたい人、せざるを得ない人も含めて、いるはずなんです。その当時、生活保護とかもなかったかもしれない。体を売ってでも稼がないといけないのに、国は『売春は治安を乱す』と言って取り締まる。ヤクザの助けがないと商売できない、生きていけない。藤田さんが言いたいのはそういう事じゃないかなぁ」

 

仔月「はい」

 

fee「ただ、必要もないのに出しゃばってきて場所代を取っていくような、弱きをイジメるようなヤクザも出てきた。金儲けが第一になると、暴力を使って弱い者から金をとる方が楽ですから。そんなふうに変質していっちゃったのが、新しいヤクザの人たち。

藤田さんは時代遅れになってしまった『カッコいい古い』ヤクザで、阿久津さんはそれに憧れている。栗木さんとか、藤田さんの上の方は『ダサい新しいヤクザ』なんじゃないかと思います。

ちなみに現実のヤクザを肯定しているわけではなく、あくまでフィクションの話なのでそこはよろしくお願いします(苦笑)」

 

仔月「理屈としては解りました。藤田さんの理念に賛同できるかどうかは別として」

 

fee「まぁ僕も、特にヤクザを擁護したいわけでもないので(苦笑)」

 

 

☆『吹雪に死神』


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*アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』、『そして誰もいなくなった』のネタバレを含みます。

fee「本題に行く前に。タイトルの付け方が印象的ですね。吹雪『に』死神ってw 無理やり感があります。その後の「恋愛『で』死神」「旅路『を』死神」もそうですが、とぼけた脱力感が出ていて良いタイトルだと思いますw」

 

仔月「wwww」

 

fee「『吹雪に死神』の話をしますと、昔ながらの謎解きミステリとしては、短編集中で一番巧いなと思いました」

 

仔月「ですよね」

 

fee「まず枠がビシっとハマっているんですよね。吹雪の山荘で人が死んでいく」

 

仔月「クローズドサークルものです」

 

fee「本文でも料理人が『オリエント急行の殺人』の名前を出していて、真由子さんに間違いを指摘されるシーンがあります。明示はされないんですが、料理人が言いたかったのは、確実に『そして誰もいなくなった』だと思います(余談ですが、『そして誰もいなくなった』というタイトルを出さないのも、『解る人だけにやりと出来るネタ』として上品です)

この、『オリエント急行の殺人』と、『そして誰もいなくなった』を足して2で割り、そこに死神要素を付けて独自性を出したのが、この『吹雪に死神』かなと。

あらすじ行きます。今回の対象者は田村聡江さん。田村ご夫婦と他何名かが、吹雪の山荘に旅行に行きます。まず最初に田村さんの旦那(幹夫)さんが亡くなって、次に権藤さんが亡くなる。権藤さんの息子と料理人と真由子と、対象者の田村聡江さんが残ります。最後に真由子さんも亡くなって、さて誰が犯人でしょうか!?というストーリーです」

 

仔月「はい。えーと……感想を言うのが難しい作品だなぁ……」

 

fee「最初の田村幹夫さんの死の真相部分が、とても巧いなと思いました。『吹雪に死神』は一つの独立した作品ではありますが、前に出てきた作品とも関わりがあるじゃないですか。

 

表題作「死神の精度」のP21

隣のテーブルでは、仲の良さそうな男女が向かい合って食事をしている。女が、『お腹一杯でもう食べられない』と腹を撫でながら、困惑と媚びの混じった表情で言うと、向かい側の男が、『いいよ、僕が食べてあげるよ』と張り切った声を出した。女が『優しいね。ありがとう』と嬉しそうに礼を口にしたが、どうして食事を分け与えた側が喜んでいるのか、私には理解できなかった』。

 

このさりげない描写が、編をまたいで『吹雪に死神』の真相に繋がっている。これが凄く巧い。伏線の貼り方として完璧です。編をまたいでいるのも巧い。これ、推理できました?」

 

仔月「全然できなかったですw」

 

fee「怪文書を書いたのは誰かとか、その辺りは推理できるようには書かれていないと思うんですが、最初の田村幹夫さんの死の真相は『推理しようと思えば、なんとか推理できたかも』というギリギリのラインを突いていると思います。あの伏線は、「死神の精度」を書いている時に既に、後で使ってやろうと思って計算して書いていたのかなぁ?

この連作短編は3~4か月に1編ずつ雑誌連載したようなので、後から伏線を紛れ込ませるのってまず無理じゃないですか(出版する時に加筆修正をする、という卑怯技は別として)。最初から考えていたのか、後から思いついたのかは解りませんが、どちらにしても巧いなぁと感じ入りました」

 

仔月「この作品、ぼくはちゃんと読み込めなかったというか、読み切れなくて。なんとなく雰囲気で読んじゃったので、ほとんど感想が言えない……」

 

fee「その割には70点じゃないですかw 真由子の彼氏が後から来るというエピソードがありますけど、彼氏の正体が隠されているんです。読んでいて、『真由子の彼氏は死神なんでしょ?バレバレだぜ』と思って。

実際そうなんですけど、これは『撒き餌』というか『二重の罠』なんですよね。最初の謎を解くと安心して、『これで解決。俺は名探偵だ!』と油断してしまいましたw。

敢えて分かりやすい謎を罠として用意しておいて、僕が油断したところで、ガチっとやられた。もうちょっと謎を隠せよwわかりやすすぎwと思って読んでいたら、見事に騙された。そういう作者のテクニックも光っているなと」

 

仔月「はいw」

 

fee「伊坂さんは巧いですよね。この『吹雪に死神』は、いわゆるミステリらしいミステリというか、これが日本人の考えるミステリの原風景なのかなと。

『死神と藤田』とか『旅路を死神』も、ミステリ内のサブジャンルでもあるスリラー・ハードボイルドだと思うんですが、そうしたタイプの違う色々なミステリを書いているのも、高評価したいです。『吹雪に死神』はオーソドックスなミステリでありながら、編をまたいだ伏線を貼るという、トリッキーな事もしていますし。

……まぁ、田村幹夫さんの『本当にこれ毒なのかな? ぐびぐび→死亡』というのはマズいんじゃないかとは思いましたw 全部千葉さんのせいですよね」

 

仔月「ですよねw」

 

fee「『オリエント急行』は、『吹雪に死神』と同じで、全員が犯人、全員がグルなんです。旅行に誘い込んで、一人ずつ被害者を刺していく。『吹雪に死神』では千葉さんのせいで、その計画がうまくいかなかった。それで今度は、犯人が別の犯人に殺される数珠繋ぎみたいな形になります。『吹雪に死神』は『オリエント急行』の計画と、『そして誰もいなくなった』のシチュエーション、この2つを合体させている。パロディだと明示した上で、自分なりの作品を新たに作れている。

……話はズレますが、イキリ系の若者が多いですね。『死神と藤田』の阿久津、『吹雪に死神』の英一、『旅路を死神』の森岡……みんな同じような人格に見えるw」

 

仔月「似ていますよねw」

 

fee「しかし僕だけが喋っていますけど大丈夫ですか? 何か言いたい事とか……」

 

仔月「いやぁ……ほんと、雰囲気で楽しんだだけなので何も言えないですw」

 

fee「雰囲気で楽しんで70点というのが、僕にはよくわからない(苦笑)。僕が『雰囲気で楽しんだ』というと、『大して面白くなかったけど雰囲気は楽しんだ』みたいな意味合いになる事が多くて」

 

仔月「表題作の「死神の精度」と比較すれば、相対的に楽しめたので点数を高めにつけました」

 

fee「ミステリ的な共通点があるという事で?」

 

仔月「ですねw」